「・・・にぎやかですね」

テニス部レギュラーを背に不機嫌そうに立っている海堂を目にしたは、開けた玄関のドアに寄りかかって呟いた。



−After Story−

−この感情の名は−





リビングへと大人数を招き入れたがキッチンに入ると、海堂はそれを追った。グラスを戸棚から取り出したは、ちらりと視線をやった。

「かまいませんよ」

海堂が口を開く前にが告げた。

「おおかた不二さんあたりに誘導尋問されて、案内しろと笑顔で脅されたんでしょう」
「・・・すまん」

その通りだった海堂は複雑そうな表情をしながら謝った。

「脅しだなんてひどいなあ」

キッチンの入口に立った不二が笑った。ちょっとお願いしただけだよ、という先輩に海堂は、どこがだ、と心の中で叫んだ。呆れたようには不二を見て、麦茶を注いだグラスをお盆にのせた。それを海堂は、手伝う、とからお盆を取った。

「すげー広いなあ」
「テレビでけー」
「あ、英二、桃、か、勝手に触ったらだめだよ」

賑やかだ、と目の前の光景を見て、は小さく笑んだ。こんなに賑やかなのは、何年振りだろうか、と。

「麦茶です」
「あ、お構いなく」
「どうも」

桃城と菊丸は相変わらずリビングの中を見回していたが、他の面々はソファと床に座った。は再びキッチンへ行って、戻ってきた。

「事前にいっていただければ、いろいろ用意したんですけど」

煎餅の入った入れ物をテーブルの中心に置いた。突然来られては大したもてなしもできないというに河村と大石は申し訳なさそうに頭をかいた。

「今日はたまたま家にいたからいいですけど、出かけていたらどうするんですか」

呆れたようにがいえば、そういわれれば、と皆が思った。そこまで考えていなかったのか、とはその様子で理解した。

先輩、かわいいっすね」

写真立てを手にした越前が笑うと、は反応に困ったように越前を見た。それを見て海堂は、いつも伏せられていたものだと目を僅かに見開いた。そこには、とても幸せそうに笑っている少女と少年がいた。青と紫の目を隠さずに無邪気な笑顔でいる姿は、子供らしい姿だ。

「これ、?」
「ちょ、英二、勝手に!」

菊丸の手にはアルバムがあった。どっから出してきたんだ、と大石がぎょっと目を丸くした。は、そういえば前回返ってきた奏一が見ていた、と思い出した。

「はい」
ちっせー」
「ってか、写真嫌がりすぎじゃね」

菊丸の手元を覗き込んだ桃城がいうと、乾がふむとそれを覗き込んだ。中学生くらいに見える少年から小さい少女は逃げようとしている。それを隣で爆笑している小学生の男の子がいた。その隣の写真は、直後のものだろう。不機嫌そうに視線を横へやったままの少女の両隣りに、すごい笑顔の少年が二人いた。

も子供らしいとこあったんだな」

わがままもいわないようなイメージを持っていた桃城は笑った。当たり前だろ、と海堂は心の中で呟いた。ソファでアルバムを中心に集まるメンバーには交じらずに、海堂は麦茶を口にした。
視線をに向けると、なにがそんなにおもしろいのだろうかと、首をひねっていた。

「あ、髪が青くなった」
「つか、モデルみてー」
「これ、海外?」
「さっきから、アメリカっすよ」
「マジか」
「あ、この写真、ちゃん、綺麗だね」
「美男美女って感じだよね」

喜んでいいのか困ったような表情を浮かべたままのを見て、海堂は複雑な感情を覚えた。不器用なやつだ、と。人のことはいえないが、女なのにという人物は感情を見せることが苦手であるにもほどがある。だいぶ打ち解けてきてはいる。それでも写真の中に映る彼女とは別人のような表情だ。
この男が生きていたらなら、この表情がみれたのだろうか、と海堂はふと写真立ての中の少年を見て思った。そして、じりじりと胸の奥に違和感を覚えた。熱いような、痛いような感覚。

「海堂さん?」
「あ?」
「麦茶のおかわり、いかがです?」
「ああ、頼む」
「はい」

ふわりと笑んだ姿を見た途端、そのささくれのような感情はスッと引いた。




UP 05/13/14