−After Story−
−なんなんだ!−
が髪を染めてから、への呼び出しが増えた。
転校してきた頃は多かった。それもクールドールなんてあだ名がついてから、それは減った。たまにちょくちょくあるくらいだった。それが、髪を染めて雰囲気がちょっと柔らかくなったからなのか、また呼び出しが増えた。
「あれ、は?」
「先輩ならさっき呼びだされてっす」
越前が答えて、俺は、あっそ、と短く返した。いつの間にか呼びかたが変わったのは不二だけじゃなかった。
「律儀に毎回応じなくていいと思うんすけどね」
ふてくされたようにいう越前に俺は、視線を向けた。が用意したであろうドリンクを飲んでいる。
「今週で四回目だな」
「うおっ」
後ろから突然顔を出した乾に思わず声が出た。
「びっくりするだろー、乾ぃ」
「今週で四回・・・」
「ああ。二年二人と三年二人だ」
「そんなデータまで取ってるんすか」
呆れたように越前が呟いた。同感。
「ファンとしては、色々なことを把握しておきたいものだろう」
「ファンって・・・」
「意外とミーハーなんすね」
乾はさも当然とけろっといって見せた。
はメディアで取り上げられていたテニスプレーヤーだったらしく、それを見ていた乾はファンだったらしい。越前もそのころのを見ていたらしく、なんとなくそういう気持ちは理解できるらしい。
俺は当時それを見ていなかった。後から乾が取っておいた映像をDVDに焼いてくれて、皆で見た。それは、もう言葉を失うような衝撃だった。
それでも、今のがどうしてもそれと結びつかず、俺には別人という感覚が強い。
「乾先輩は、ただのファンでいいんすか?」
挑戦的に笑みを浮かべている越前に、乾は笑った。
「ああ。チームメイトになれただけで、満足だ」
「ふーん。意外と望みは低いんすね」
「本来なら会えない人物だからな」
ん?ちょっとまてよ。
「お、おチビ、まさか」
「先輩のこと、好きっすよ」
きっぱりと宣言した。このストレートさは、帰国子女だからなんだろうか。思わずフリーズした俺に、越前はニヤッと笑った。
「菊丸先輩って、好きな相手をいじめたくなるタイプでしたっけ?」
「な、なに、いってんだよ」
「に一番つっかかっていってたな」
ふむ、と乾が観察するように俺を見た。
「いやよいやよも好きの内ってやつっすか」
「はあ!?」
越前の言葉に俺はぎょっとした。何を言い出しているんだ、こいつは。生意気ルーキーとデータマンの二人がにやりと笑っていて、俺は居心地が悪くなった。
「それじゃ、俺がを好きみたいじゃんか!」
「違うんすか?」
「違うのか?」
声を揃えるな!
「まあ、負ける気しないけど」
「だから、ちがう!」
叫ぶようにいってから、俺はどくどくと心臓がうるさくなっていることに気付いた。
「お、大石どこいったにゃ!?」
話題を変えるように、慌てて周りを見回して、逃げるように駆けだした。
顔が熱い。心臓がうるさい。これじゃあ、二人にそうだと勘違いされてもおかしくない。
のことはもともと嫌いだった。そっけなくて、無愛想で、失礼なやつだと思っていた。けれど、それにはアイツなりの理由があって。アイツはアイツなりの苦労があって。本当は、馬鹿みたいに、すごく気を使うやつだった。それがわかってから俺のアイツへの認識が変わった。
は美人だ。スタイルもいい。声も高すぎず、低すぎず。運動神経は抜群だ。勉強もできる。料理もうまい。この間知ったが、実はお嬢様だ。よくよく考えてみれば、アイツはすごいやつだ。・・・いや、だからって。
俺が好きなのは梅ちゃんであって。何故さっき直ぐにそういわなかったのか。思わず膝に手をついて、溜息を吐いた。
「菊丸さん?」
突然聞こえた声に俺はがばっと顔をあげた。
「あ、え、!」
「な、んで、そんな大声・・・」
なんつータイミング!
バクバクと心臓がうるさくなった。顔が熱くなっていく気がする。
「いや!なんでもにゃい!」
「はあ」
不思議そうに首を傾げた。僅かに困ったように眉を下げて、少し口角をあげたまま。かわいい、なんて思ってしまった俺は、さらに焦った。何を考えてるんだ。相手はだぞ。
「なにか、トラブルでも?」
「違う!」
大きな声で答えた俺に、は、ならいいんですけど、と返した。
「お、俺、練習戻る!」
ああ なんなんだ この ときめきは!
UP 05/06/14