−SIDE STORY−
−STRANGE BOY−
夢をみた。
なんだか覚えていないけれど、あたたかい夢。
誰かに呼ばれた気がしてゆっくりと目を開くと、目の前には、まあ、よく見かける青い空と白い雲。
「あいたかった。」
小さく呟いて、ぼやけた視界の中それに手を伸ばす。
「先輩?」
ただよく見かけないことといえば、見下ろして立っている人間が傍にいたということ。
「珍しいっすね。」
ぼうっとしていた焦点が私の顔を覗き込んでいる姿にあった。
伸ばした手をつかまれる。
「えち、ぜんくん?」
手を取ったのは、サムライといわれた男の息子であり、テニス部で一年生レギュラーの少年。
「屋上で寝そべって昼寝してたなんて、誰かに言っても信じてもらえないっすよ。」
ニヤリと笑みを浮かべる姿は、よく似ていると思う。
「・・・そんな事実を信じてもらう必要があるんですか?」
「別に?」
すぐに返ってきた答えに眉を寄せた。
「それにしても、先輩がこんな所で寝るなんてね。」
自分はよくやっているのに、私だとおかしいんだろうか。目を閉じる。
「教室が騒がしいので。」
「だからって、ココで寝るわけ?」
目を開けると怪訝な顔で私を見下ろす越前君。
それでも、ああ、と突然納得したような顔をする。
「おっかけがいるんすもんね。」
何かと私に構ってくる少女のことを彼は知っているらしい。
「いつも不二先輩や菊丸先輩といるんすよね。」
「・・・隣のクラスのはずなんですがね。」
一年生である彼に知られているというのは複雑な気分だ。
「あの人、図書委員なんすよ。」
なるほど。
噂からではなく、本人を知っているからそのことを知っているのか。
「そうですか。」
ようやく意識がハッキリしてきた。
目を開けて、しゃがんでまで私の手を取った相手の手を見る。
「・・・いい加減離してください。」
自分よりも硬い印象のある手の内側にはまめが出来ているのがわかった。
そして、意外にも彼の手が大きい事に気付く。
「先輩、無防備すぎません?」
「・・・何の話です?」
そんな事より、いい加減に手を離して欲しい。
「突然手出されて、そんな顔で、あんなこと言うのって、勘違いされてもおかしくないッすよ?」
そう言った越前君の顔は本当に近くて、私は目を丸くした。
「あんまり無防備だと、誰かに襲われるよ?」
訳のわからない事を言う相手を私は困ったように見る。
「そんな変わった人、いませんよ。」
くだらない、というように言えば越前君は笑った。
「俺、変わってるよ。」
思わず目を見開いた。
「な、に、言って・・・」
まさか、彼がこんな事を言うとは思わなかった。
「俺はアンタのこと、嫌いじゃないし。」
ふと額に触れた柔らかい感触の正体がなんだか最初はわからなかった。
「むしろその逆だし。」
そう呟いた後に私の手は開放されて、ただ唖然とした私を置いて扉はゆっくりと閉められた。