ああ どうか この よかん が はずれて ます よ う に



嫌な予感がしたは、霊圧を探ってその足を急がせた。そして、たどり着いた先に、嫌な予感が当たってしまった事を知る。

「藍染隊長・・・」
「おや、あまり驚いていないみたいだね」

これは意外だったな、と口元に笑みを浮かべた相手にはゾクリと背筋に不快感が走る。

「いきて、いたんですね・・・」

そして、安心感と同時に悲しみが押し寄せる。藍染が生きているのならば、何故吉良と雛森は互いに刀を向けなければいけなかったのか。それを思ったは胸の奥が痛んだ。一瞬目を伏せると、まっすぐ前を見た。

「今なら、まだ、間に合います。馬鹿な真似は、お止めください」

マジメにはっきりと告げるとは、逆に藍染は面白いものを見ているかのように笑う。

「はは、それは無理だねぇ」

その言葉には、悲しそうに目を伏せた。すっと視線をあげると、藍染の後ろに控えた市丸を捕らえた。

「市丸隊長・・・」

呼ばれた市丸は困ったように笑った。

「困った子やねぇ、ちゃん。ちゃんと隊舎に居らんとあかんよ、って言うたのに」
「そんなことを言ってたのか、ギン」

僅かに意外そうな顔で市丸に振り返った藍染に、市丸は、すんまへん、と謝った。

「・・・吉良副隊長を出したのは、市丸隊長ですよね」

震える声で言うを、藍染は再び笑みを浮かべてみた。予想通りこの娘は勘が鋭いのだ、と。そして、この娘は尸魂界を裏切らないだろう、と僅かに残念に思った。

「市丸隊長、お願いです」

潤んだ目で見つめるに、連れて行きたいと思ってしまう程、自身が気に入っていることに市丸は心の中で苦笑する。

「藍染隊長と、何をお考えなのかは、知りません・・・でも、このままどこか、遠くへ行ってしまう気がして・・・」

は不安そうな声で告げる。

「副隊長も、三番隊の皆、貴方を信じて、ここまでやってきました。それに、わ、私も貴方をお慕いしています。ですから・・・!」

いかないでください、と小さく呟いた。その言葉に市丸は、嬉しさで心が満たされていくのを感じた。

「君は、本当に頭の良い娘だ」

藍染の声に、ハッとしたように市丸が目を見開いて、びくりと肩を揺らした。

「藍染隊長が居なくなっては、雛森副隊長が悲しみます」

震える声で、哀願する。

「藍染隊長、考え直してください」

しかし、藍染はその笑みを深めた。

「案ずることはない。雛森君は、僕なしでは生きていけないだろうからね。ちゃんと対処するさ」

藍染の言葉にはゾクリと背筋を冷たいものが走った。その眼の冷たさには拳を握った。一体何を、と頭の中で懸命にその意味を考える。そして、まさか、と目を大きく見開く。

「い、ったい、何を・・・」
「君は知る必要のないことだ」

そう言った藍染の手が動いた瞬間、は青ざめながら、自身の斬魄刀に触れる。

「いい反応だ」
「ッ――・・・!」

藍染の斬魄刀をは自身のそれで何とか受け止めた。藍染の穏やかな笑みとは反対に、はキチキチと鳴る斬魄刀に精一杯力を込めながら、苦しそうに歯を食いしばる。キィン、と離れた斬魄刀が響かせる。の頬に一筋の傷跡が出来ていた。

「お止めください!」
「そう思うなら、私を殺すんだな」

一人称が変わり、低くなった声音には顔を強張らせた。そして、一瞬の殺気を本能的に察知し、藍染の刀を受け止めた。

「藍染隊長!」

キィンと弾いた刀が鳴った。引いた足元の地面がジャリと音を立てる。そして、突然近くに感じた気配に刀を構えなおす。再び強い力で刀を押され、は刀を交えた相手に息を呑んだ。

「い、ちまる、たいちょう・・・」

泣きそうな表情に市丸はどきりとした。そないな顔せんといて、と心の中で呟く。

「言うこと聞かんなんてあかんね。お仕置きせな」

キィンと離れた刀が鳴る。ざり、と一歩引いた左足が地面と擦れる音がした。その瞬間、の目の前に市丸の顔があった。

「    」

耳元で聞こえた言葉には大きく目を見開いた。ぞわっと体中を駆け巡った感覚と同時に腹部が異常なまでに熱く感じた。重力に逆らうことなく、ゆっくりと世界が傾くのがわかった。

「たい、ちょ・・・」

呼ぼうと口を開くと同時にごぼっと口から出た赤が地面に広がった。そして、薄れていく意識の中、その見慣れた白い羽織を二度と見ることがないということを理解した。



こんなときに、
   すきだなんて、
      いわないで




up 03/12/09