「あれは、地獄さ」
以前、アレンが見ている世界をラビはそう形容した。
この世界は
彼女を
殺そうとしている
「初任務、お疲れさま」
コムイが向けた言葉は、眠る相手には届かない。
アクマの魂の姿が見え、声も聞こえるらしいという報告を受けた。神田にしては珍しく、僅かに報告することを躊躇っているように見えた。だが、それも報告を受けるうちに納得した。
『・・・イノセンスを発動させると、アクマの魂が見えるらしい』
『アレン君みたいだね』
『いや、モヤシとは違う』
『違う?』
『アイツは、声も聞こえる』
『声が?』
『・・・死にたいなら自爆でもしろと叫んでいた』
ヒュッと喉の中で空気が鳴った。
殺してほしいと、乞われたのか。なんと残酷な世界をこの少女は見ているのだろう。
コムイは目を閉じた。
『・・・そうか』
苦しみ、悲しみ、嘆きの声を聞きながら、彼女は戦わなければならないのだ。
それでも、まだ若い少女に頼らねばならない。彼女に酷なことを強いるしかない。
『・・・このままだと、そいつ、死ぬぜ』
神田の言葉に、コムイは少女から目を逸らした。
「早く目を覚ましてくれ」
祈るように言うと、瞼が震えた。
「あ・・・」
ゆったりと開いた瞼からのぞいた瞳が、天井を映した。
「お、おはよう」
先ほどまで目覚めることを望んでいたのに、その瞳が自分を映すと、コムイはなんと声をかけたらいいのかわからなくなった。
「・・・コ、ムイさん?」
「うん」
かすれた声は、数日間眠っていたためだろう。
「な、ぜ」
「君、もう何日も寝てたんだよ」
は、その言葉に、目がわずかに見開き、コムイからその視線を外した。
「・・・君?」
「・・・あれが」
ぽつりと呟くように問いかけた。
「あれが、エクソシストの見ている世界ですか?」
コムイは首を振った。
「普通は、見えないし、聞こえないものだよ」
「・・・そうですか」
落ち着いたトーンに、コムイはそっとの顔を見た。何の感情も見られない。まるで、人形のようだ。
ゾクリとした感覚が背中を駆け抜けた。
「人を殺すアクマと、アクマを殺す私と、どう違うんですかね?」
UP 04/25/14