愛という感情
「何やってんの?」
「あ、エンヴィー。」
本を読んでたの、と笑う相手に眉を寄せた。
「本?」
「そう。本。」
人間が書いた本なんか何で読んでるんだよ。
くだらない。
「何でそんなもん読んでるわけ?」
「あ。ひどいなぁ、エンヴィー。結構面白いんだよ?エンヴィーの言う『人間が書いた物』でも。」
苦笑をしながら言われてなんだかむかついた。
「そんなムッとしないでよ。」
「別に・・・」
何読んでるんだよ、と少し話を俺から本へ向けてみた。
するとは笑って俺に読んでいた本のカバーを見せた。
「で、どんな話なわけ?」
タイトルを見せられただけじゃ俺にわかるわけないじゃん。
の隣に座ると古くなったベッドが軋んだ。
「ある女の子が居てね、男の子に恋をするの。二人は恋人同士になるんだけど、男の子は記憶喪失になっちゃうの。」
まるで自分の事のように悲しそうな顔をしたに俺は不思議に思った。
ただの作り話じゃん。
「行方不明になってしまった男の子を女の子はずーっと待ってるんだ。だけど男の子は他の子と結婚していたの。」
それでね、ととても悲しそうに微笑んだ。
「再会した時に女の子は笑ったの。『貴方が幸せでよかった』って。」
それが私の幸せだからってね、と台詞を続けた。
貴方の幸せが私の幸せ?
「くだらない。」
そんなの、あるわけないじゃん。
「え・・・?」
俺の言葉に驚いた様にが目を見開いた。
「そんな無償の愛なんてあるわけないじゃん。愛情なんて感情、あるわけない。」
じゃなきゃ、浮気だの何だのなんて起きないだろ?
「恋なんて、錯覚だよ。」
馬鹿な人間達の、と言うとが俺の名前を呼んだ。
「エンヴィー。」
「なに?」
「本気で言ってる?」
本気じゃなきゃなんだよ?
冗談?
こんなつまんない冗談言う訳無いし。
当たり前じゃん、と言うとが笑った。
「馬鹿だなぁ、エンヴィー。」
本を軋むベッドに置いて俺に体ごと向いた。
「愛は絶対あるんだよ、エンヴィー。」
優しい顔で微笑む。
「だって、嫉妬は愛があるから存在するんだよ?」
愛があるから、人は嫉妬する。
「色欲も愛がなければ存在しない。」
色欲は愛があったからできる。
「食欲も愛があるから存在する。」
食欲は食べ物への愛。
「私達は愛があるから存在できるんだよ。」
それにね、と俺の頬に触れて笑った。
「私はエンヴィーが大好きだよ。」
ああ、が言うなら愛は存在するんだろう。
「エンヴィーはちがうの?」
君の言葉を信じる、この感情は―――
「・・・さあ、ね?」
―――愛なのだろうか?
UP 10/30/05