『名前がある人間は素敵じゃない?
ずっと繋がっているなんて羨ましい。』
『それなら―――』
【FIRST CONTACT】
「あんまり今日は写真撮らなかったなぁ・・・」
撮ればよかった、と立夏は溜息を吐いた。手の中のデジカメにはユイコと撮った写真が映し出されていた。公園の前を通りかけると立夏の耳にキィ、とブランコが揺れる音がした。
ブランコの音は公園なんだから聞こえてもおかしくない。
しかし立夏は、自分の考えに疑問が浮かんだ。
少し暗くなってきたこの時間に子供がいるか?
またブランコの音が聞こえるとその音に引き寄せられるように公園に入っていった。そして、ブランコに座って居た少女と目があった。
空色の瞳に銀色の髪。
一瞬時が止まったように感じた。
しかし、柔らかい風が吹いて他のブランコが音を立てると、時が戻ったように少女が微笑んだ。
「こんばんは」
「あ。こ、こんばんは・・・」
優しく微笑む少女に思わず顔が赤くなる。ゆっくりと少女がブランコから立ち上がった。
「もう夜になる時間ね」
「はい・・・?」
「貴方は、月が好き?」
「え。まあ・・・キライじゃないけど・・・」
少し首をかしげながらも頷くと少女は少し妖艶な笑みを浮かべた。
「今夜は綺麗な月が出るから、素敵な事が起きたのね」
え?と聞き返す立夏を他所に少女はクスリと笑った。
「また会いましょう、立夏」
サアッと風が吹いて立夏が目を瞑った瞬間、彼女はそこに居なかった。
その事実に立夏は目を丸くし、数日前に会った兄の知り合いという男を思い出した。
ただ、立夏が少女に名前を呼ばれた事には気付かなかった。
不思議がる立夏と反対に少女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「立夏って可愛いね・・・清明。」
『名前があるって、素敵だと思うの。お互いが必要としているんだもん。』
『・・・・・・』
『だから羨ましいの、名前の在る者が。』
『・・・』
『私には居ないんだもの。永遠に繋がっている事ができる相手が。』
『それなら―――』
そっと目を閉じて見る過去の映像は今でも鮮明に見える。
『僕達と繋がっていればいい。』