「あ。おかえりなさい、宵風」
突然後ろから回ってきた腕に抱きしめられた。その腕の持ち主の名を呼ぶとぎゅっとさらに力をこめられた。
「ちょ、宵風?」
いつもとちょっと違う様子の宵風に困ったように後ろを向こうとするが、力強く抱きしめられ身動きが取れなかった。宵風、とまた呼ぶとちょっとだけ力が緩んだ。その間に後ろへ向いて、宵風と向き合う形で抱きしめられた。すると突然体重移動させ、支えきれなくなった私は、うわ、と小さな悲鳴を上げながら後ろへ倒れる。地面の衝撃に耐えようと目を閉じたけど、感じるのは暖かい宵風の腕だけだった。一応考えながら倒れたらしい。
「宵風・・・」
肩に乗っかっていた宵風の頭がわずかに動いた。首筋に触れる柔らかい唇の感触にぞくっとした感覚が背筋を走った。びくりと肩を揺らすとそのまま首筋に顔を埋めたまま大きく息を吸ったのがわかった。まるで匂いでも嗅ぐかのように。
「宵風、ちょっと、重いよ・・・」
「」
ようやく宵風からでた声にほっとする。とりあえず一回離れて、といっても離れる様子はない。
「充電中」
初めて聞く言葉に思わず目を見開く。すると首から顔を上げた宵風と目が合った。再び名前を呼ぶ前に口を宵風のそれでふさがれた。慣れないその行為にぎゅっと目を瞑るとまた宵風の髪が頬をくすぐる。ちゅっと音を立てて首筋にキスをされると、恥ずかしくなってぎゅっと宵風の服を掴んだ。するとガタン、という大きな音がして驚いて目を開くと、いつもの机に荷物を置いた雪見さんと目があった。慌てて宵風を押しのけようとしたけれど、びくともしなかった。
「お、おかえりなさい。雪見さん」
「おう」
ただいま、と返してくれた雪見さんは何事もなかったかのようにパソコンの前に座った。助けてくれないんですか!と叫びたかったけれど、恥ずかしすぎて頭がパニック状態になっていた。
「宵風、盛るなら部屋で盛れ〜」
「なッ・・・!」
なんてこと言うんですか、と雪見さんを睨む。
「よ、宵風、今は昼間だし、ここリビングだしね。外から帰ってきたから、お腹すいたでしょう?今何か作ってあげるから、どいて頂戴。ね?」
慌ててそういうと、のっそりと宵風が起き上がった。ホッと一息吐くと、よしよし、と宵風の頭を撫でて体を起こした。
「お腹空いたよね、今、作ってあげるから。ちゃんとソファに座っててね」
のそのそと膝を抱えて座る体勢になった。
「ン?部屋行かないのか?」
「ゆ、雪見さん!」
ご飯作らないぞ、と脅しの言葉が口から出かけたけれどなんとか飲み込んだ。私のこの恥ずかしい思いの原因は宵風であり、雪見さんのせいではない。八つ当たりはよくない。
「ねえ、」
宵風が雪見さんと私が話している間に入ってくることは珍しい。ちょっとびっくりしながらもソファへ振り返るといつも通りの感情表現の乏しい顔で、ポツリととんでもないことを言ったことに気づいた瞬間、もうしらない、と叫んで大爆笑する雪見さんと爆弾発言をした宵風を放ってキッチンへ逃げ込んだ。
夜まで待てばいいんだ?
up 03/12/09