「三橋君」
ああ、相変わらずだなぁ。
びくりと肩を揺らした相手に少し嬉しさを感じる。
「あ、あ、あ、ちゃん!」
目をキラキラさせた相手に私は笑ってみせる。
「ぎゅーは?」
あ、と口を開けて、しまった、という表情をさせた相手は慌てて私のほうへ駆け出した。
それをみて私は両手を広げる。
「ちゃん!」
「うわぁッ!」
がばっと飛びついてきた相手の勢いが予想以上で踏ん張れなかった。どん、と大きな音を立てて後ろに倒れてしまった。
「あ、あ、あ、ちゃんッ!ご、ご、ごめん!!!」
私の上で涙目で謝りながら慌てている。
「ご、ごめん!ごめん!ちゃん!ごめんなさい!!」
「うん、大丈夫だよ」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
真っ赤な顔をして、謝る相手のほっぺたに手で触れる。
「大丈夫」
すると三橋君は安心したようにヘニャンと笑った。相変わらず覆いかぶさるように私の上に居る相手が変わってないことにほっとした。
「お、おい、三橋」
突然した声にはっとしたように三橋君が振り返って、私も声のしたほうを見た。
「お前なぁ、何してんだよ・・・」
隆也だ。
少し頬を赤くした隆也の後ろには三橋君のチームメイト達が他にも顔を赤くしていた。たぶん三橋君と私の体勢だろう。へ、と少し素っ頓狂な声を出した三橋君は相変わらず不思議そうな顔で振り返っている。きっと状況がわかってないんだろう。
「ねえ、ちゃんとしたぎゅーが欲しいなぁ」
「あ・・・!」
ただの体当たりのようになってしまったさっきの行動を思い出したのか、三橋君は仕切りなおしとでも言うように一瞬上体だけを上げてまた私に飛びついて、ぎゅーっと抱きしめてくれた。それに応えるように前より大きくなった三橋君の背中に私も腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「元気そうでよかったよ」
「うん。ちゃんも、元気、そうでよかった」
あったかい三橋君の体から土のにおいがして、ほっとした。
「ちゃん、暖かい」
「うん、ありがと」
えへへ、と笑うと、ごほん、と後ろで咳払いが聞こえた。びくっとまた肩を揺らして三橋君が振り返る。
「お前なあ・・・」
頬を赤くしたまま眉間にしわを寄せた顔の相手に私がにっこりと挨拶した。
「おひさしぶり、隆也」
ども、と三橋君の背中に回っていた右手を上げる。
すると名前を知っていたことに驚いたのか、 阿部君は目を見開いて私を見た。呼んだの初めてだし。
三橋君はあわあわしながら私と阿部君を見比べている。
「あ、あの、ちゃん!あ、阿部君のこと、知って、るの・・・?」
「うん。知ってるよ。だから久しぶりなんだもん。初めてだったらはじめましてでしょ?」
「う、うん・・・」
あ、少ししょげた。
「何してんだよ?」
「何って、ぎゅー」
不機嫌な顔で見る阿部君に私は笑ってみせる。
「三橋君は、私のだーいじな人なの」
ぎゅっとまた三橋君を抱きしめると、三橋君は困ったようにおろおろと阿部君と私を見比べている。
きっと私と阿部君の関係を一生懸命頭の中で考えているんだろう。
ああ、かわいいなぁ。
UP 01/20/09