イタリアに移動した俺達を迎えたのは盛大な歓迎会だった。
正直、屋敷に居る人たちが次から次へと挨拶に来て、飛行機で疲れてた俺は楽しむどころじゃなかった。だから昨日はずいぶんゆっくり寝ていたのに、時差ぼけからか、慣れてないからなのか。今日はなんか一回起きたら、いつものようにまた寝れなくて。仕方なく、そのまま着替えてみると、部屋の外で獄寺君の声がした気がして、ドアを開けてみた。
primo contatto
「獄寺君?」
案の定、廊下には獄寺君が居た。けど、俺の予想と違ったのは、一人で立っていなかったことだ。
俺のほうからはスーツの後姿しか見えない。
「じゅ、十代目が二人!?」
「ええ!?」
驚いたように獄寺君が叫んだ。ってか俺が二人ぃ!?
意味不明な獄寺君の言葉に首をかしげる前に、ゆっくりとこっちを向いた顔に俺はさらに驚くことになる。
「おはようございます。ボンゴレ十代目、沢田綱吉様。昨夜はゆっくりお休みいただけましたか?」
「あ、は、はい!」
それはよかったです、と流暢な日本語で微笑んだ相手の顔は、俺だった。
まるで鏡を覗き込んだときのように、俺によく似ていて。それはもう、本当の一卵性の双子のように。だけど、今まで俺に双子が居るなんて話は聞いたことがなかったし、他に兄弟が居るなんて話も聞いていない。それでも、目の前に居るこの人は、俺にそっくりで、唯一わかりやすい違いといえば、声で。俺よりもほんの少し高めの声だった。
でも、この人は絶対に歓迎会にはいなかった。そう思っていると、俺の考えがわかったのかその人は申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「歓迎会の日には、任務がありまして。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「あ、いえ!」
俺の前に跪いて、ゆっくりと右手を俺のほうへ伸ばしてきた。
「と申します。以後お見知りおきを」
「な、な、なッ・・・!!」
俺の右手を取ってそれに口付けた相手に俺は顔が熱くなっていくのがわかった。
てめぇ、と小さく獄寺君がうなったのが聞こえたから、また喧嘩をはじめようとしたのかと思って焦ったけど。さんはゆっくりと立ち上がって獄寺君を見た。
「獄寺隼人。スモーキン・ボム。ボンゴレリングの守護者。嵐のリングを持っている者」
睨む獄寺君とは反対にさんは穏やかに微笑んだままだ。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「ああ?・・・関係ねえだろ」
「ご、獄寺君!」
初対面の相手にこんな態度はいけないと思ったけど、どうやらさんは気にしていないらしくて。久しぶりのイタリアは懐かしいものでしょう、とずっと微笑んだまま。
「数日間は休日となっていますから。十代目を観光にお連れしてはいかがです?」
「うるせーよ、てめーに言われなくてもわかってんだよ」
「獄寺君!」
いくら相手が仲間だとしてもこんな悪い態度でこれから色々やりずらいじゃないかぁ!と叫びたくなった。さんは俺のほうを今度は向いて、時間の許す限りのガイドを務めさせていただきます、と言ってくれた。ああ、なんていい人なんだ。
でも、その言葉がどうも気に入らなかったらしい獄寺君は、おい、と大声を出した。
「十代目の右腕の俺が居んのにてめーなんざぁ必要ねぇんだよ!」
出会ったころから変わらない獄寺君の気持ちはありがたいけど、それで人に喧嘩を売るのだけは昔からやめてもらいたいと思う。すると、さんの表情が変わった。さっきまで微笑んでいた目から優しさは消えて、何かを拒絶するような眼になった。さっきまで柔らかかった空気は凍りつくように冷たくて、少しぞっとした。
「十代目の右腕だと豪語するなら、貴様が十代目に敵を作るのはやめておけ」
さっきよりもトーンを落とした声で告げられた言葉に獄寺君は言葉を失った。
「失礼いたします、十代目」
「あ、ひ、引き止めてごめんね!」
いえ、と小さく言うとさんはそのまま歩き出した。
ちらっと獄寺君を見ると呆然としたままさんの後ろ姿を見つめていた。
UP 05/08/14
primo contatto = ファーストコンタクト。初めての接触。