雲から逃げる



いつも一人になりたい時に行くガーデンの中にあるソファへ向かっていたが、そこに先客がいたことに驚いた。

「だれ?」

不機嫌そうにソファーから起き上がった相手の顔に覚えがあった。雲のリングの守護者。雲雀恭弥。先程獄寺隼人と沢田綱吉に会い、獄寺隼人は完全に僕を綱吉だと勘違いした。その間違えは当然のものであり、期待通りの反応だった。だが、今目の前に居る男は、なんと言った?

「あの草食動物の兄弟?」
「・・・草食動物?」

何だそれは、と聞き返すような声に雲雀恭弥は、沢田綱吉、と一言答えた。

「日本語、話せるんだね」
「ボンゴレは初代から日本贔屓だから」
「でもちゃんと日本語が話せる奴は少ない」

確かに、と心の中で呟く。

「で、だれ?」

再び問われた質問に、マフィア、と答えにならない答えを出すと、不機嫌そうに眉が寄せられた。

「ふーん。何で、そんな格好してるの?」
「そんな格好といわれるような格好じゃない」

事実、着ているものはただの黒スーツだ。

「男物のスーツ」

それは僕がここに居るためだ。

「僕が男物のスーツを着ることのどこがおかしい?」

ふっ、と雲雀恭弥が笑った。群れるのが嫌いで、いつも不機嫌そうで、暴力的な男だという話を聞いていたけれど、そうでもないのか。

「女の君が、なんで男物のスーツを着ているのかってことだよ」

驚いた。名乗る前に僕の性別を気づかれることなんて今までなかったのに。

「・・・仕事着だ」

男の格好をするのも仕事の一部だ。そのために、僕はここに居るんだから。ふーん、と言った雲雀恭弥が立ち上がった。

「な、に・・・?」

一歩近づいてきた相手に、僕は一歩下がった。

「なんで女の君が、沢田綱吉のモノマネなんてしてるんだい?」

馬鹿にするような笑みを浮かべ、また一歩近づいてくる。
僕がなぜこの格好をしているかなんてわかっているのだろう。
そして、それをくだらないと思っている。
視線を足もとへ落とした。

「・・・僕は、十代目のためにある」

ふーん、と思ったよりも近くで聞こえた声に視線を上げた。
目の前まで近づいていた相手に驚いて、慌てて後ろへ飛び退いた。

「似てると思ったけど、その化粧と格好が無ければ、似てないね」

ニヤリと笑った雲雀恭弥の言葉に唖然とした。
そんなことを言う相手ははじめてだった。
あまりの衝撃に僕は、何も言えず、ただその場から走り去っていた。



UP 05/12/14