Fammi vedere
「さん」
「十代目」
お呼びですか、とが問うと、うん、とちょっと照れたように笑った。
は少し首をかしげてから、招かれた部屋の中へ足を踏み入れた。
「あ、ご、ごめん、散らかってて・・・」
慌てて机の上に散らかった洋服や書類を片付けようとする上司には、気にしないでください、と告げる。いつも手際よく仕事をこなしていく相手を前におそらく早く用件を告げて欲しいのだろうと予想をつけた綱吉は恥ずかしそうに頭を掻いた。じゃあこっちに座って、とソファを指した。綱吉の言葉に素直に座ったは、話の続きを待つように隣に座った綱吉を見た。
「あの、えっと・・・」
外はすでに暗くなっており、部屋の中の明かりは机の横とベッドの横、ソファーの横の三つのランプのみだった。僅かに開いている窓から柔らかな風が白いカーテンを揺らした。
「十代目?」
綱吉はどう、自身の考えを告げればいいのかわからなかった。
初めて会ったとき、穏やかな笑みを浮かべていた人物は、普段は表情をあまり変えない人物なのだと知った。人一線引いて話す姿はファミリーの中でも浮いていた。もちろん十代目という肩書きを持った自身にそっくりなのだから、浮くのは当たり前だ。だが目の前に座る相手はさらに目立つことをしている。格好は常に男物であり、言葉遣いも男っぽい。強いのだと、綱吉よりもうんと年上の部下は以前言っていた。しかし、綱吉自身はそれをわかってはいても、どこか納得できなかった。違和感、という表現が一番正しいのだろう。
そして、どうすれば目の前に今も変わらず感情を見せない相手が自分に心を開いてくれるだろうか、と最近は考えていた。数日前に挨拶と称してザンザスやスクアーロが来た時、今まで見たことがない笑顔を浮かべていたのだ。それを見て、やはり彼女は自分を隠しているのだと思った。そして、ザンザスとスクアーロには心を開いているのだと知って、それを自身にも見せてもらいたいと思った。
「なにか、あったのですか?」
俯いた綱吉を前にして、は眉根を寄せた。
「いや、そうじゃなくて・・・」
えーと、といつまでも話の進まない綱吉は、相手の苛立ちを感じ、慌てて口を開いた。
「お、お願いがあるんだ!」
もう少し言い方があったかもしれないと綱吉は顔を赤くした。は、おねがい、と言われた言葉を小さな声で繰り返した。そして、ふとある考えにたどり着く。
「僕が、女に見えるとも思えないけど。」
え、と唐突なの言葉に綱吉は困ったように動きを止めた。
「貴方が望むのなら、僕は手伝うことができる」
「え・・・?」
僕の中に入れないけど、と小さく付け足された言葉は、綱吉の耳にはとどなかった。
すっとの手が伸ばされた。それが自身の下半身へ向かったのがわかった綱吉は、慌ててその手を掴んだ。
「なッ!ちょ!?」
綱吉はがした勘違いを理解し、顔を真っ赤にした。
「なにしてんの!?」
女の子がなんてことを、と頭の中はパニック状態になりそうだったが、落ち着け、と自身に言い聞かせた。怒鳴った綱吉を前には首をかしげた。きょとんとした表情のを前にして、綱吉は胸の奥が痛んだ。
「こんなこと、頼みたいんじゃないよ・・・」
の手を掴んだ手にぎゅっと力をこめた。
「ねえ、さん。こんなこと、誰かに頼まれたことが、あるの?」
綱吉は胸が苦しくなりながら問うた。は目の前でとても苦しそうな顔をする綱吉に、まさか、とあっさりと答える。
「ヴァリアーに手を出す奴なんかいるわけないでしょう」
それもザンザスやスクアーロ達幹部と仲がいい、と言う事実もある。そんな命知らずはたしかにいないだろう、と綱吉は納得する。しかし、普通の友情や触れ合い方を知らずに、こういう知識を持っているという事実にまた胸が痛んだ。
「こんなこと、もうしちゃ、だめだよ」
十代目の命令ならば、という答えに、そうじゃないよ、と困ったように眉を八の字にさせてを見た。
「好きな人とならいいけど、好きじゃない人とこんなことするもんじゃないんだ」
そっと両手で自身の手を包む綱吉の手を見た。
「貴方が命ずるまでするなということですか?」
「そうじゃなくて!」
考え方がまったく違うのだ。基本的な常識がないに自分の言いたいことはおそらく伝わらないのだろう。それが歯がゆかった。
「こういうことは自分がしたい、と思う人としかしちゃだめだよ。好きな人とか恋人とか、そういう人とだけ」
いい、と確認するように問うが、の返事は肯定ではなかった。
「おっしゃっている意味がわかりません」
珍しく、本当に困ったようなの表情に綱吉はどうすればいいのだろうかと迷った、そのとき。
「失礼します!十代目!」
と、大声で入ってきた獄寺は目の前の光景に驚いた。手を握りながら見詰め合う、大好きな人と大嫌いな人。
「なッ・・・!」
あまりの衝撃に固まる獄寺をよそに、はスッと立ち上がり、失礼します、と綱吉に頭を下げた。綱吉は、扉を開いて出て行こうとするを慌てて呼び止めた。静かに振り返ったに、一瞬言葉を詰まらせたが、再び口を開いた。
「・・・さっきの話、忘れないでね」
は、その言葉に間を置いて答えると、部屋を出て行った。
「・・・十代目のおっしゃる通りに致します」
それはつまり意味がわかっていないままだ、ということに気づいた綱吉は肩を落とした。
まったく話の内容がつかめなかった獄寺は眉間に皺を作った。それに気づいた綱吉は、これから聞かれるであろう問いに、さらに頭が痛くなった。
出会い方が出会い方だったでせいか、目の前に居る右腕だという男はどうもを敵視している。
「十代目――!」
「獄寺君の用事は?」
ぎゃあぎゃあと騒がれる前に、と先に問うた綱吉に獄寺は顔を僅かにしかめたが、本来部屋に訪れた理由を話した。
UP 05/22/14
Fammi vedere = let me see。 見せて。