mi scusi
久しぶりに会った相手に、おはよう、と声をかけると、おはようございます、と丁寧に返された。
屋敷に来たばっかりだった三日、四日間は、結構会っていたのに。
「慣れましたか?」
何に、と指定していない問いかけに、困ったように、まあ、と答える。鏡のように似ているのに、柔らかく笑む表情は自分とは全然違う。
「さんみたいに頭がよければ、早く色々出来るようになるだろうけど・・・」
「まだ一ヶ月も経っていないんですから。そんなに無理をしなくても、大丈夫ですよ」
俺を安心させるように笑うさんに、少し心が軽くなった。
「少しずつ慣れていけばいいんです」
ここ数日間屋敷内の隠し通路や仕組み等を覚えるのと同時に、色々な業務の手順やらなんやらを頑張って覚えようとしていた。周りの期待に応えようと頑張っていた。
一週間程会っていなかったのに、何もかも見通しているような言葉に俺は言葉に詰まった。心がじわりと温まるのと同時に、ほっとしたように体から力が抜けた。
「僕達は貴方のために居るんだ」
力強い眼と声音が、俺を見た。
それは数秒前の柔らかい表情とは真逆のもの。力強い眼でありながら、どこか人形の美しいガラス玉のようで。手足がスーッと冷たくなるのを感じた。
「、さん・・・」
何を言ったらいいのか、一瞬迷うと、後ろから声をかけられた。
「!」
振り返ってみると、イタリア人にしては背の低い男が駆け寄ろうとしていた。俺と、彼から見て、俺の後ろに居るさんを見て、その足が止まった。困ったように視線が俺とさんの間を行き来する。
「ルイージ」
さんが名前を呼ぶと、男はホッとしたように、しつれいします、とイタリアなまりの日本語で言った。
そして、俺が聞き取るには早すぎるイタリア語で言葉を告げる。さんがいくつか言葉を返して、ルイージさんは、しつれいします、と再びイタリアなまりの日本語で言った。俺にお辞儀をするとその人はまた来た方向へ戻った。
「それでは失礼致します」
今度は綺麗な日本語が俺の耳に届いた。
UP 05/13/14
*mi scusi = 失礼します