今のは一体何だ。
どくどくと心臓の音が耳の奥で響いて聞こえる獄寺は、汗がジワリと手に浮んでいることに気付いた。
見知った背中があって声をかけようとしたが、他に誰かがいることに気付いて、咄嗟に影に隠れた。
ボンゴレの門外顧問であり、十代目ボンゴレの父、沢田家光。十代目の影武者、。共通点の見えない二人だった。その二人を包む空気はお世辞にもいいものとはいえなかった。
『最近は、休みの日とか、何してるんだ?』
『貴方には関係のないことです』
冷やかなその目を獄寺は知っていた。初めて会ったときに、十代目に敵を作るな、といった時の目だ。
『・・・たまには、飯でも、行くか。うまいもん、おごってやるよ。どうせろくに飯も食ってねえんだろ』
いつも騒いで綱吉を困らせている家光とはかけ離れた姿に、獄寺は目を細めた。とても悲しそうな、切なそうな表情だ。
『・・・今更、父親面するな』
低い声で告げられた言葉に、耳を疑った。
殺意すら抱いているような目で睨む姿はとてもじゃないが親子の姿とは思えなかった。
獄寺は、自身が聞いてはいけないことを聞いてしまったことに困惑していた。
「うそだろ・・・」
比喩だろうか。だが、今更、ということは、と頭を悩ませた。苗字だって違うのだ。
だが、それで説明がつくのではないだろうかと獄寺は先ほど見た顔を思った。性別は違えど、双子といわれても違和感のない顔。声だって多少高めではあるが、十代目とよく似ている。
だが、実際に双子や兄妹だったとしたら、と獄寺は唾を飲み込んだ。
『心配しなくとも、十代目は何も知りませんし、疑ってもいません。僕もいうつもりはありません』
十代目である綱吉ですら知らないのだったとすれば。それが、二人の秘密なのだとすれば。すべてのつじつまが合うのではないか。
しかし、一度だってそんな話は聞いたことがなかった。綱吉の家へ入り浸っていた獄寺は、彼の母もよく知っていた。奈々がいないといったのは、家光だけだ。娘がどこかへいっているという話は聞いたことがない。
家光が奈々にべたぼれであるのは周知の事実だ。別の女と、などとまったく想像がつかなかった。おそらくそれは息子である綱吉だって同じだ。獄寺は、右手で顔を覆うようにした。
「それはないだろ・・・」
頭に浮かんだ考えに、獄寺は思わず一人でポツリと呟いた。
そして、何故自身がこんなことで悩んでいるのかわからなくなった。たとえ、いけすかない女が敬愛する男の血縁だったとしても、今と何も変わらない。自分が守るのは十代目なのだ。
「チッ」
気分を落ち着かせるために、煙草に火をつけた。
そ れ で も
こ こ ろ の お く は
ざ わ ざ わ と さ わ ぐ
UP 06/11/14