素敵なお誘い
「ブォンナノッテ」
「・・・この前の」
驚いたような顔になった相手に、はふふっと笑った。
「この前はありがとうございました。お一人?」
「ああ」
「一緒だわ」
ルチアーノは、ニコレッタくらいだろうか、とその笑顔を見て思った。アジアの人間は若く見えるというから意外ともっと上か、と心の中で呟いた。
「私、」
「ルチアーノだ」
握手した途端に、どんと後ろから人にぶつかられてはよろけた。
「よく人とぶつかるな」
「ごめんなさい」
「しっかり立っていられんのか」
つっけんどんな口調だが、を支えてエスコートする手は優しい。
劇場を出ようとする人混みの中、二人で歩き出した。
「もう大丈夫よ」
グラッツィエ、と言うと、ルチアーノはそっと手を離した。
「演劇とか、よく見るの?」
「ああ、そうだな」
時計を見た。
「若い娘はさっさと帰れ」
ぷっとは吹き出した。お父さんみたい、と笑う相手にルチアーノは自然と眉間に力が入った。
「日本にいる頃は、夜中まで外にいたわ」
「不良娘か」
日本人だったのか、とルチアーノは黒い髪を見た。
「親は何も言わなかったわ」
ふふふと笑うに、ルチアーノは目を細めた。
「それじゃ」
「帰るのか?」
ルチアーノの問いには、んー、と人差し指を唇にあてた。
「バールによってからかしら」
くすくすと笑う相手に、ルチアーノの口角が下がった。
「・・・一杯付き合おう」
「へ?」
突然の申し出に、はきょとんと目を丸くした。
「行くぞ」
一歩前で振り返って、自身が歩き出すのを待っている相手に、はくすくすと笑いだした。
「素敵なお誘いね」
UP 04/14/14