休日にみかけたひと



リストランテが休みの日。
いつものベンチに新聞を持って、フランチは新しく買ってやった本を持って座っていた。

「あ、いたいた」
「フランチ、アイス食べます?」
「家でご飯たべませんか?ジジも来るんですよ」

次々といつも合わせる顔が通り過ぎていった。

「なんで休みの日まで同じ顔を見なきゃならんのだ」
「そりゃ、いつも同じところにいるからだろ」

思わず漏れた言葉に、テオは笑った。前もこんなやり取りをしたな、と顔を顰めた。

「チャオ、テオ、ルチアーノ、フランチ」
「チャオ、ニコレッタ」
「チャオ」
「またここにいた」

ニコレッタが笑った。じゃあ俺は、とテオはバイクに乗って去った。

「フランチ、それなに?」
「ノンノがこの前買ってくれた本だよ」

みせてみせて、と二人で本を覗き込んでいる姿を見て、ふと頭に一人の人物が浮んだ。
劇場の先々で会い、観劇の後は必ず何処かへ寄り道してから帰る、異国の若い女。偶然とは思えないほど何度も劇場で会った。増えた回数に、観劇後の寄り道は自然と何も言わなくても付き合うようになっていた。会話の話題は演劇が中心。

「これ小さいとき読んだー」
「本当?」
「本当よ」

そういえば、とふとあることに気付いた。
彼女の事を何も知らない、と。
日本から来たこと。両親は健在で日本にいること。それ以外何も知らない。家まで送ったことは何度もあるので、住んでいる場所は知っている。だが、部屋に上がったことはない。
顎に自然と手をやった。何をしているかも知らんな。それどころか、フルネームもわからん。

「チャオ、
「チャオ」

聞き覚えのある名前と、聞き覚えのある声に、どきりと心臓が音を立てた。顔をそちらへ向けると、視界に黒髪の人物が映った。ハッと小さく息を飲んだ。それは今の今まで頭に浮かんでいた人物だ。



いつもと雰囲気が違うが、あれは間違いなくそうだ。カチッとしたスーツを着ている。隣にいたスーツを着た女性が手を振って離れた。
目が一瞬合うと、わずかにの目が見開いたあと、口角が上がった。しかし、それも一瞬でこちらへ向いていた顔が前へ向いてしまった。挨拶することもなく、彼女は通り過ぎて行った。

何故?

「ノンノ?」
「ルチアーノ?」

ハッと振り向くと、二人が不思議そうに見ていた。

「知り合いでもいたの?」
「いや・・・」

二人が顔を見合わせた。
何故は何も言わずに通り過ぎた、と首を傾げた。自然と眉間に力が入った。

「美人でもいたんのかしら?」
「それだったら、ノンノあんな顔しないよ」

そんな会話も聞こえないほど、胸の奥で感じた燻りに困惑していた。



UP 04/18/14