俺と彼女と彼女の本達

−ロミオとジュリエット−



「何読んでるんだ?」

俺が鞄を床に置いてソファに横になっているに問うた。彼女の手の中にはなんだか古そうな本。
しかし彼女はパタンとしおりも挟まず閉じた。

「別に。つまらない本。」
「そうなのか?」
「うん。」

部活どうだった?と訊ねるに疲れた、と返す。
そしてはくすくす笑いながらキッチンに入っていき、じゃあ夕飯作る、と言った。
俺は学ランを脱いでソファに座った。そしてが見ていたものを手にした。

「ロミオとジュリエット・・・?」

珍しいな。
は愛のテーマはあまり好きじゃなかったはずだ。
映画のタイタニックを見た時でさえ『ありえない』と一言を妹の杏に告げただけだったらしい。
そのせいで杏に、お兄ちゃんの女の趣味を疑う、と言われた。


◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇◆


「ご飯できたよ。」
「あ、あぁ。」

相変わらず早業の彼女の料理は美味かった。

「美味しい?」
「あぁ、美味い。」
「良かった。」

ニッコリと笑うは凄く可愛いイメージを持たれる。

「さっき、読んでた本はどうだった?」
「別に。面白くなかった。」

淡々と告げられた。

本当にそう言う話が嫌いなんだな・・・


「ロミオとジュリエットはただすれ違って死んでしまったって言うだけ。」
「そうか?」
「だって眠るだけの薬を飲んで相手が勘違いして死ぬ。そして自分の間違えで相手が死んだから自分も死ぬ。馬鹿な話じゃない。」

しかも、知らせを届けるのが遅かったロバのせいだよ?滑稽でしょ、と言う。

そのキモチもわからなくないがな。
愛してるから死ねる、という考えはに無いんだろう。


「相手をそれだけ愛していたんだろう?だからロミオもジュリエットも相手が居ない事が考えられなかった。・・・違うのか?」
「それが馬鹿な話なの。」

そうきっぱり否定されると哀しいんだが・・・
俺は、きっとが死んだら自分も死ねると思う。
それだけ彼女を愛している。
にその考えは無いんだろうか。

「桔平が死んでしまっても私は絶対に死なない。」
「それは、俺がどうでもいいからか?」

思わずムッとしてしまった。
別に俺の後を追って死んで欲しいわけじゃないが、其処まできっぱり言われると哀しい気持ちもある。
しかしは首を振って微笑んだ。

「違うよ。桔平が死んでしまった分、私が生きる。だって、桔平は私が死んだら哀しいでしょう?」

の言葉にハッとする。

そう言うことか。


「どんなに辛くても、私が死んだらきっと桔平も悲しむ。だから、私はちゃんと生きてから桔平に会いたい。」
「あぁ・・・」
「だから、桔平も私が死んでも死んだりしないで、生きてね?予定より早かったら天国で怒るから。」
「あぁ、気をつける。」

くすくすと笑う彼女の言いたい事がわかった俺も笑った。
そして時間が遅くなっていき俺が帰ろうとすると玄関で抱きつかれた。

「確かにロミオとジュリエットは馬鹿な話だと言ったけど。2人のキモチがわからないわけじゃないから。」

ギュッと更に強く抱きつかれる。

「私、桔平が望むなら、桔平の後を追って死ぬ事だって出来るわ。」
「・・・俺も、が望むなら、の後を追って死ぬ事だって出来るぞ。」
「うん。」
「愛してる。」

啄ばむようなキスを繰り返して俺は家に帰った。
翌日杏にロミオとジュリエットの話をすると、やっぱり兄さんの女の趣味ってわからない、といわれた。
しかし、それは彼女の最後の言葉を教えなかったからだけの事。




◇FIN◇
元CLAP。

09/24/04