ま だ 君 が こ ん な に も 愛 し い の に ・ ・ ・ 




情けない恋






苛立ちの理由なんか、わかりきっていることだ。



俺はこの間彼女と別れた。

。派手で元気一杯では無く、少し落ち着いている感じだった。わがままも何も言わない。静かな女。テニスをする俺が好きだといった女。

『悪ぃな・・・また、部活が入っちまって』
『ううん。私亮君のテニスする所好きだよ』

綺麗な笑顔で俺をいつも元気付けてくれた。
いつからだろうか。俺たちがすれ違うようになったのは。


『あれ、亮君・・・?』
『今日、部活って言ってなかったか?』
『え・・・あ、えーっと、言ってたかも!ごめんね、忘れてた!』



何故気付けなかったんだろうか。の表情に。切なそうなあの顔に。今更、後悔したって遅いのに。
今では忍足の傍に居るという事を俺は跡部から聞いた。

「情けないねぇ〜」
「うるせぇよ、滝」

やれやれと溜息を吐く滝。こいつとの仲ものおかげで良くなった。

「別れる時に嫌だって言えばよかっただろ?」
「言えるわけねぇだろ・・・」

俺のせいでは寂しい思いをしてたんだ。俺が縛り付ける事なんかできない。

「そこがダメなんだよな、宍戸は」
「ああ?」
ちゃんはお前に言って欲しかったんだよ」
「何を?」

俺を指差して真剣な顔で言った。

「宍戸の本音」
「・・・・・・」
「お前、ちゃんに1回も言ってなかったんだろ?すきだって」
「そんなの、言ったに・・・・・・」

言ったに決まってる?

告白の時は、からだった。


『宍戸君が好きです!』
『え・・・!』
『付き合って、もらえませんか・・・?』


真っ赤な顔で俺を見た。驚きのあまり何も言えなかった俺に悲しそうな顔になって。

『ダメですか・・・?』
『・・・だめじゃねぇよ』


俺も恥ずかしくて視線を泳がせたのを覚えてる。

『これから、よろしくな』
『あ、はっ、はい!』


本当は俺も好きだったから、嬉しくて恥ずかしかった。ドモリそうになるのを気をつけて返事をした。
デートは俺はテニスがあったからあまり行けなくて。でも、行った後は俺の家に来たりした。
思い返していくと俺はに好きだと言った事はあんまり無い事に気付いた。言った覚えがあるのは二回。初めてキスをした時。初めてのデートに行った時。

「言った事は、ある・・・」
「どのくらい?」

滝の眼は真っ直ぐ俺を見ていて、俺は居心地が悪かった。けど、俺を本気で心配してるのがわかる。

「それは・・・・・・」
「あんまり無かったんだろ?」
「・・・・・・」

わかってたけど、ホント、少ねぇな・・・

「宍戸」
「・・・・・・」
「正直言うと、俺、お前とちゃんが別れた事にほっとしてるんだ」

驚いて滝を見ると苦笑いを浮かべていた。ほっとしてる?お前もが好きだったのか?

「勘違いすんなよ?俺は、ちゃんをそう言う風に見た事はない」
「あ、ああ・・・」
「でも、お前といる時、ちゃん凄く辛そうだった」

辛そうだった・・・?どうして?

ちゃんさ、ワガママ言えないタイプだから。相手の事ばっかり考えるんだ」

幼馴染のコイツは時々俺よりを知ってる。

「一緒に居て欲しいって言えなかったんだよ」
「お前っ、そこまでわかってて―――!」

カッとなって立ち上がった。わかってる。コイツを怒鳴るのはお門違いだ。

「わかってたからだ」

冷たい眼をして俺を真っ直ぐ見た。

が苦しんでるのがわかったから、言わなかった」
「ッ・・・!んでだよ?!」
「それぐらい気付けなきゃあの子と付き合って欲しくなかった」

そうだ。俺のせいなんだ。気付けなかった俺の。

「宍戸」
「・・・・・・」
「悪かった」

目を伏せてつらそうな顔で滝は謝った。

「んで・・・お前が・・・」

目が熱くなってきて、俯いた。くそ・・・激ダサ・・・
唇を噛んで手が白くなるくらいの力で拳を握った。

「ごめん・・・宍戸」
「何で、お前が謝んだよ・・・」

俺が悪いのに。ポンと頭に手を置かれた。

「俺は此処に居ない」

意味不明な言葉を言った瞬間俺の頭をグッと肩に押し付けた。

「誰も居ないから、泣いていいんだよ、宍戸」
「っ・・・・・・」

かっこ悪いのはわかっても目が熱くなって涙が止まらなくなった。

「好きだったんだ・・・!」
「うん」
「情けねぇくらい、あいつが好きだったんだッ・・・!」
「うん」
「今でも、好きだッ・・・・・・!」
「うん・・・」

情けなく叫んだ言葉を静かに滝は頷いて聞いていた。まるで小さい子供みたいに泣き叫ぶ俺の背中を撫でて静かに話を聞いていた。


俺の情けない恋の話をずっと。





◇FIN◇

忍足恋シリーズのヒロインで。

12/10/04