「重い・・・」
小さな呟きは誰にも聞こえることはなかった。ずるり、と肩から落ちそうになった人を慌てて支える。未成年ではなくなったということで、酒豪のスメラギに付き合わされたのだろう相手から、酒の匂いがする。自棄酒ではないだけマシなのか。それにしても、何故自分が面倒を見る羽目になったのか、とは数分前に起きた出来事を思い出した。
『〜!』
『・・・なんでしょう?』
顔を赤くして部屋から出てきたスメラギとバッタリ出くわしてしまったのが運のつきだったのかもしれない。
『も飲みましょう!』
『お断りします。』
きっぱりと断れば、んーしょうがないわね、と言うともう一度部屋の中に戻ったスメラギを首を傾げて見た。その場から離れようと、歩き出すと、まちなさーい、と止められた。
『コレよろしくね!』
『は?・・・なッ!』
スメラギが、コレ呼ばわりした顔を真っ赤したアレルヤだった。ふらふらとまっすぐ歩けないらしく、ほれ、とスメラギが押すとアレルヤはに覆いかぶさるように倒れこんできた。慌てて足に力を入れ、自身よりも重たい体を支えた。
『スメラギさ――』
『それじゃよろしくー。』
プシュ、と音を立ててしまった扉を前に、は困ったように自身に寄りかかる相手を見た。
すべてはタイミングの悪かったためだ、とは溜息を吐いた。部屋までなら自分で戻れるだろう、と思ったは、アレルヤを部屋まで帰るように言おうと思ったのだが、酔いすぎてふらふらと足元がおぼつかない上に意識もハッキリしているのかが定かではなかった。部屋まで連れて行くことにしたのだが、だんだんと眠りにつきはじめたのか、先程よりも体を預けてきたアレルヤを困ったように見た。
「アレルヤ・ハプティズム。」
呼んでみると、うん、と答えが返ってきたが、どうもはっきりとしていない。きっと目が覚めたら驚いて顔を真っ赤にさせるだろう、とは自分達の体勢を考えて思った。そして、きっと大げさなまでに慌てて謝るのだ、と。ふと、口元に笑みが浮かぶ。
やっとアレルヤの部屋の前に着いたは再びアレルヤに呼びかけた。
「アレルヤ・ハプティズム。パスワードを。」
「ん・・・」
僅かに体を揺らして見せる。
「パスワードを。」
もう一度繰り返して、だらりとしていた方のアレルヤの腕を取ってキーパッドに触れさせる。すると反射なのか、そのキーに触れてパスワードを入力した。相変わらず目は閉じられている。シュンと開いた扉を前に、勝手に人の部屋に入っていいものか悩んだが、どう考えても今の状態のアレルヤが自分で歩いて部屋の中に入って寝る準備が出来るとは思えず中へ入った。
はベッドへとアレルヤを座らせた。
「アレルヤ・・・」
は無意識のうちにとても穏やかで優しい声音で呼んでいた。そっと支えていた腕を放す。閉じられた目は時々僅かに開かれ、うとうとしているのがわかった。座ったままの体勢でも自分で眠るだろうと思っていたの考えは間違っていたらしく、ぐらりと片方へ頭が揺れるとまた逆へ無意識のうちに元の体勢に戻る。またぐらりと揺れてはそれを繰り返した。はそっと手を添えて、横にさせた。ん、とちいさくアレルヤが声を出したが、起きる気配はなかった。穏やかな寝顔はまだアルコールが抜けていないために赤い。とりあえずは大丈夫だろうと、はほっと息を吐いた。
「・・・ッ!?」
部屋を出て行こうとした瞬間、ぐいっと強い力で腕を引っ張られたは、あまりに突然のことに足に力を入れるまもなくぐらりと後ろへ傾いた。ぎゅっと反射的に目を瞑ると、柔らかい衝撃が背中と頭に感じられた。
「あ・・・・・・」
が目を開けると、一番に入ったのは金色だった。両手首を押さえつけられ、誰かが部屋の中に入ってきたら間違いなく誤解されそうな体勢だったが、はそんなことよりも、ただただ目の前で意地の悪そうな笑みを浮かべた相手に驚いていた。
「ハレ、ルヤ・・・」
「へえ。」
思わず呼んでしまった名には、しまった、と思った。アレルヤの前ではまるで他人のように振舞ってきたのだ。それが、ハレルヤの名を呼ぶことにより、今までの行動に反してしまう。
「やっぱりな。」
ハレルヤの言葉は、を覚えていたのだと肯定するものだった。
「は、なして、ください・・・」
僅かにハレルヤの顔が近づき、は視線を逸らした。その言葉遣いと態度にハレルヤは眉を寄せる。
「んだよ、ずいぶんと他人行儀じゃねえか。」
ハレルヤが耳元で、実験体としての名前を呼べば、はびくりと体を揺らした。
「なあ。」
「放して、ハレルヤ・・・」
手痛い、と呟くようにが言うと、ハレルヤは力を僅かに緩めた。
「死んでなかったんだな。」
「・・・悪かったわね、生き残ってて。」
貴方達が居なくなった後に逃げたのよ、と続けたは居心地が悪そうに目を伏せた。
「ッ・・・!」
「生きてて良かった。」
そこに居ることを確かめるかのように抱きしめたハレルヤに、は息を呑んだ。まるで、アレルヤが言うように出た優しいその声と腕に、の心臓がどきりと鳴った。
「ハレルヤ・・・」
貴方達が無事でよかった
UP 01/20/09