ガウン、と重たく冷たい扉の鍵を壊して、その中へ足を進めた瞬間、息を呑んだ。一歩入った部屋は窓も何もなく、真っ暗だった。何もないコンクリートで出来たその部屋は、冷たく人が居るべき環境ではない。その狭い部屋の中央に置かれた小さな椅子の上に全身を拘束された探し人を小さく呼んだ。
「・・・・」
元々細かったその体は、分厚い拘束着の上からでも痩せたのがわかる。肌は今にも消えてしまうのではないかと思うほど薄い白だった。その肌と強いコントラストを見せる目の下に出来た隈が、今までの環境の厳しさを物語る。口元を隠す鉄の塊の奥からは僅かに呼吸音が聞こえる。宙を彷徨っていた目がこちらに向き、見開かれる。銃で拘束する金具を外したが、動きがない。おかしい、と思いながら近寄り、口の拘束を解く。
「てぃ、えり、あ、あ、で・・・」
掠れた声に顔を顰めた。しかし、は微笑んだ。何故、この状況で笑えるのか。
「げんき、そうだ」
「ああ」
動こうとしない相手に怪訝な顔を向けたあと、ようやくその理由に気付き、拳を強く握った。
動かないのではなく、動けないのだ。そこまで彼女の体力は消耗されている。歯がぎりっと音を立てた。
「変わらない、ね」
「よく、言われる」
立ち上がることの出来ない相手に手を伸ばす。背に手を回すと申し訳なさそうに僕を見た。
「手をかけさせて、ごめん」
「かまわん。」
抱きあげると、あまりの軽さに言葉を失った。その軽さはどう考えても、成人女性の重さではなかった。どれだけ酷い目にあってきたのか。本来ならば両手がふさがれた状態で居るのは得策ではないが、仕方がない。しっかりと横抱きにすると、その場から急いで出る。
セラヴィーに乗り込むと、一人で立つことが出来ないを膝に座らせたまま発進させる。ティエリア、と名を呼ばれ、僅かに視線を下げてみた。
「・・・疲れたなら眠ればいい」
「ありがとう」
ゆっくりと微笑を浮かべたまま目を閉じたに、ああ、と返す。
「帰ろう」
UP 03/08/13