白衣を着た研究員に、どうぞ、と案内された部屋のソファに座るように促され、少々お待ちください、と言った男はそのまま部屋を出て行った。
「いかにも研究室って感じですね・・・」
ポツリと呟いた部下に、確かに、と部屋中に並べられた実験器具の数々を見渡しながら心の中で頷いた。しばらく待っていると、入り口の扉が開いた。沈黙を破った扉のほうを二人が見ると、白衣を着た女が立っていた。
女の姿にセルゲイは目を見開いた。白衣を着た女は長い銀髪を一本に結び、どこか冷ややかな表情でその青い目をゆっくりと自身が手にしていた資料から顔を上げた。まだ若いじゃないか、と心の中で呟いた。
「お待たせしました」
立ち上がって挨拶をするとソファに座るように促された。それに従うのを横目で見ながら、女はアルコールランプに火をつけた。アルコールランプの上の金網に水の入ったフラスコを乗せた。それがぼこぼこと音を立て始めると、それにビンに入っていた焦げ茶色の粉を入れて混ぜた。粉が溶けて茶色の液体になる。それをビーカーに注ぐと、ソファのほうを見た。
「コーヒーは?」
手にしたビーカーに目を向けて、若い部下はちらりとセルゲイの様子を伺った。さすがに研究室内のフラスコやビーカーに入った飲料を飲むのは衛生面で疑問に思ったのだ。実験器具以外にも部屋の中には薬品もたくさん並んでいる。それはセルゲイも同じだったらしく、顔を僅かに顰めながら、結構だ、と答えた。
「貴方は?」
「い、いえ、結構です」
差し出そうとしていたビーカーを一度見ると、それを一口飲んだ。
「それで、中佐殿ほどの方がこんな研究室にどういったご用件で?」
表情も変えず問われると、セルゲイは自身が持ってきた茶封筒を見せた。
「・博士に渡して欲しい、と頼まれたのでな」
茶封筒と受け取ったは中身を取り出して確認する。セルゲイは、やはり若いな、とその伏せられた目を縁取る睫毛を見ながら思った。天才だと説明され、一度会っておけ、という上官の指示に従ってこの研究室に来たセルゲイは、何故会う必要があるのか理解できなかった。少女と呼んでもおかしくないような容姿に、胸の奥がもやもやとする。先日自身の下についた若い乙女でありながら超人機関出身だと言ったソーマ・ピーリスと会ったときを思い出す。
「なるほど」
読み終わったは書類をテーブルの上に投げた。
「了承しました」
簡潔に答えたにセルゲイは戸惑った。自分は届けろと指示されただけでその後の事は聞いていないことに気付いたのだ。セルゲイの迷いを感じ取ったのか、は、ああ、と呟く。
「別に伝えなくても平気ですよ。確認だけでしたから」
「・・・そうか」
了承した、と応えると、セルゲイは立ち上がった。
「それでは、失礼する」
それに慌てて部下も立ち上がって礼をすると、もそれに丁寧に挨拶を返した。その挨拶がおわるとすぐに作業へと戻った。それを見ると、セルゲイは振り返ることなく部屋を出た。
コーヒー入りのビーカー
UP 05/06/14