時 は 切 な く  過 ぎ て ゆ く






自分とは違い、数年という月日で老いていく相手を見上げた。

「なんだ?」
「茶を淹れておくれ」
「茶とは、緑茶か?紅茶か?」
「・・・緑茶だよ」

溜息と同時に答えた相手に、茶では大雑把過ぎるだろう?と問うと、いいからさっさと淹れておくれ、と再び溜息を吐かれた。

「幻海は大雑把すぎる」
「お前が細かいんだよ。妖怪の癖にねぇ」
「私は普通だ」

大体、妖怪と大雑把は関係ない。

台所に向かい、以前本を読んで覚えた手順を繰り返す。幻海のために茶を沸かすのは、そんなに珍しくないことになっていた。色々な茶の種類を集めてみるのも楽しいものだ。とはいえ、一緒に飲むのは幻海しか居ないから、色々な種類の茶を淹れられないが。

「随分、美味くなったね」
「それはどうも」

湯のみから少しすすって言われた言葉を聞いてから自分も湯気のたつ湯飲みからすすった。

「お前さんは、本当に本が好きだね」
「知識を得る事は実に面白いもので」

そう答えると幻海は私を見て顔を顰めた。

「・・・年寄り臭いね」

失敬な。

「まあ、そんな事よりも、お前に頼みがあるんだよ」
「頼み?」

幻海の言葉に思わず構えた。最後に頼まれた事といえば、一週間幻海の霊波動術の相手だった。

・・・あれは地獄に近いトレーニングだった。

「そんな嫌そうな顔するんじゃないよ」
「自分の前科を考えろ」

思わず冷たい言葉になった私に、あたしゃ犯罪者か、と突っ込まれた。いつも世話になっている分、仕方なく内容だけはとりあえず聞く事にした。

「手伝うかは、頼みごとにもよるが・・・」
「そうかい?」

その瞬間、幻海がニヤリと笑ったように見えた。

「くじを作ってもらいたいんだよ」
「くじ・・・?」

何故そんなものを・・・
いまいち状況の把握できず、眉を寄せた。

「今度、弟子をとるよ」
「弟子を?」
「アタシもそろそろ年だからね」
「・・・ああ、わかった」

それ以上聞く気にはなれず、私は立ち上がった。



振向かずに呼び止められ、立ち止まった。

「老いには勝てんよ」

妖怪と違い、人間は早く老いる。

「わかっている・・・」

そんな事は十分承知している事だ。

「不便だな、人間の体は」
「まあねぇ」
「・・・くじだけ?」

意味がわからなかったらしい幻海は私に振り返って、何がだい、と訊いた。

「必要なのはくじだけか?」
「ああ。いや、できればゲーム形式のものもあるといいねぇ」

霊力を試すくじ以外にも機械が欲しい、という事は少しずつ反応する霊力を考えなければいけない。

「わかった」

ああ、と思い出したように幻海が声を上げて、私は再び歩き出そうとしたのをやめた。

「試験には霊界探偵が来るそうだよ」

思わずその言葉に反応して振り返ると、幻海は私に背中を向けたまま茶をまたすすった。

「・・・試験は公平に、だろう?」
「当たり前だよ。馬鹿もん」

なら、私には関係ない。頼まれた物を頼まれたまま作ればいいだけのこと。

「それなら作業に入る」




UP 06/04/08