『やあ、』
『・・・だれ?』
『私の名前は左京』
『さきょー?』
『今日から君の家族だ』
『かぞく?』
『さあ、おいで』
微笑んで差し伸べられた手の暖かさは、きっと忘れないだろう。
家 族 の 出 来 た 日
「ただいまー」
誰もいないであろう部屋に入りながらも、挨拶をするのはの癖だった。
父となった左京が帰ってくるのは大抵遅い時間であり、時には帰ってこないこともあった。それでもは、施設に居るころよりも幸せを感じていた。施設に居た時のような冷たい目で見られることもなくなり、家に居る時は優しい父ができたのだ。
「おかえり」
「ッ!」
まさかの返事があり、バッと声のした方を見るとよく知った顔だった。
「おとうさん!」
嬉しそうにが駆け寄ると、頭を優しく撫でた。
「本当に父親やってるんですねえ」
突然聞こえた声に、びくっとは体を強張らせた。声がした方を見ると、男が立っていた。
「だ、れ?」
今まで感じたこともない気配には戸惑ったように左京のジャケットを指先でつまんだ。
「ほお、ただの人間じゃあないんだねえ」
面白そうに口の片端だけを上げた。かわいいだろう、と左京は笑った。
「俺は戸愚呂」
「とぐろ?」
が首をかしげながら繰り返すと、ああ、と返した。
「とぐろさんは、おとうさんのお友だち?」
「仕事仲間って言ったほうが正しいねえ」
訂正した戸愚呂の言葉を確認するかのように左京を見上げた。左京が肯定するように笑むと、はジャケットをつまんでいた手を離した。
「とぐろさんは、ひと?」
「ほお」
少し不思議そうに近づいたに、感心した声を上げた。そして、そばに少しずつ近づくを抱き上げた。
「元は人だが、今は妖怪だ」
「ようかい」
左京に抱かれた時よりも高い視界に、は嬉しそうに、とぐろさんは背がたかいね、と言った。妖怪だと告げられても恐怖を示さないのは幼いからだろうか、と戸愚呂は不思議に思った。
「なかなか面白いねえ」
左京は、子供を抱きかかえる戸愚呂とはなかなか珍しい光景だ、と思いながら煙草に手を向けた。
「子供の前で吸うのは、あまり関心しないねえ」
「ああ、無意識だったよ。の前じゃ吸っていないさ」
意外だ、と言わんばかりの顔で、左京は返した。
「とぐろさん、もようかいになれる?」
突然の問いに戸愚呂だけではなく、左京も驚いたようにを見た。
「・・・妖怪になりたいのかい?」
「もつよくなりたいの」
ほお、と面白そうに返した。
「おとうさんを守れるくらい、つよくなりたいの」
「そりゃあ、親孝行だねえ」
嬉しそうに笑った左京を見ながら、戸愚呂はそう返した。
「子供は苦手だと思っていたんだが。なかなか面白いねえ」
「私の娘だからな」
自慢げに言う左京を見て、戸愚呂は、本当に面白い、と心の中で笑った。
UP 09/24/2013