目撃者



木の上で休んでいた飛影は、近づいてきた気配に下へ視線を向けた。
先日蔵馬の同級生だと言った人間の女が、静かに歩いてきたが足を止めた。確かと言ったか、とその顔を見て思いだした。不思議な気配を見て、試すように後ろから刀を振った。だが、すばやく避けて飛影の刀を白羽取りしたのだ。
自身が来たばかりの方向の茂みへ振り返った。

「いい加減出てきなさいよ」

静かにが言うと、茂みから数名の妖怪たちが出てきた。妖怪たちはいやらしい笑みを浮かべた。

「なんだよ〜気付いてたのか〜?」
「俺達と遊ぼうぜ。けけけ」

は、頬を引きつらせた。誰が遊ぶか、と呟いていた。武術会の観戦に来た妖怪たちが珍しい人間の女をターゲットにしようと考えたのだろう。
飛影は舌打ちした。蔵馬の関係者だ。放っておけば何を言われるかわからない。自分の刀を避けた女だ、放っておいても平気だろう、と言い訳のように、飛影は頭の中で呟いた。本音はただの実力を見てみたかっただけなのだ。危なくなった場合に手を出せばいい。

「怪我をする前に帰れ」

の言葉に妖怪たちは笑みを浮かべたままだ。帰る気はまったくない。仕方ない、とでも言うようにがため息をついた。

「見極める目がないのは、哀れだな」

見下すような言い方に、妖怪たちはムッとした。

「嬢ちゃん、大人しく俺達と遊べば、怪我もないんだぜ」

一人の妖怪がに近づいて、肩に左手で触れた。
幽助たちといるときはへらへら笑っていた顔が、無表情になった。

「ぎゃああああああ!!」

肩に触れていた妖怪の両腕が消えた。何故消えたのかわからないまま、突然感じた激痛に妖怪は叫んだ。飛影はハッと目を見開いた。

「触るな」

は、声を低くして言った。冷たい眼に妖怪たちは、一瞬たじろいだ。しかし、地面に落ちた両腕との手の刀から、妖怪たちはがやったのだと理解した。

「てめえ!」

の手には刀があった。霊気で作られたそれは、桑原の霊剣よりも細い。ただ霊気が剣の形をしているだけではない。はっきりと刀の形をしている。くっきりと刀の形を作るには、精密なコントロールが必要だ。
だが襲いかかろうと構えた瞬間、タッと軽く地面を蹴ったに切られていた。は、両腕をなくした妖怪以外は、流れるようにすべて頭部だけを切り落としていた。

「ひっ、す、すまねえ、命だけは・・・!」
「黙れ」

ごとん、と命を失ったそれは草の上に転がった。そのあと少しの間、は構えたまま立っていた。しかし、が力を抜くように深呼吸すると、右手から刀がスッと消えた。そして、何事もなかったかのように来た道を戻っていった。
あっという間の出来事に飛影は舌打ちした。

「なにが護身術程度だ」

大会に出ていてもおかしくない実力だ。飛影は立ちあがった。

壁を作って、返り血すら浴びなかった。

いくら雑魚妖怪と言えども、人間がそれだけ余裕を持って居られるものか。足で軽く枝を蹴って跳んだ。



UP 10/27/13