出てきていただきましょうか、と戸愚呂が言うと扉が開いた。おい戸愚呂チームのオーナーじゃねえか、と観客席がざわめいた。

!」

ぎょっと目を丸くした浦飯チームが、左京と共に立っていたを指さした。

「っていうか、どっちが出るんだ?」
「どっちも戦えるようにゃみえねーぞ」

騒ぐ観客達の声には口を開いた。

「えっと、私、おまけです」

おまけってなんだよ、とつっこむ声が聞こえるが、は誤魔化すように笑った。

「じゃあ、チームオーナーのボディガードで」

じゃあってなんだよ、と更につっこむ声はスルーした。

「なんだよ、おめえ戦えんのか〜?」
「戦うのにボディーガードがいんのか?」

観客たちの声に左京はふっと笑った。

「戦う?勘違いしてもらっては困る。私は一番見やすい場所で浦飯チームの死を見届けたいだけだ」

左京は、大将までまわってこないと宣言した。その言葉にはわずかに目を伏せた。
浦飯チームの五人目を、と促されて登場したのは、コエンマだった。てめえ戦えるのかよ、と桑原が問うた。

「いつでも逃げる準備はできている!」

自分の出番が出た場合逃げると高らかに宣言するコエンマに、桑原はずっこけ、飛影は呆れた顔を見せた。
樹里は玄海がいるのに補欠は認められないと告げた。

「かまわんさ」

左京が言うと、樹里は困ったように両チームを見た。

「見たところほとんど霊気を感じない。お飾りの人数合わせといったところだろう」

鴉の言葉に、よく見破った、とコエンマは自慢げに言った。

「さすがに、この距離で皆に会うと、なんか微妙だね」

鴉はちらりと苦笑を浮かべたから蔵馬へと視線を移した。こめかみに指をあてて、バン、と仕草で挑発した。

「決勝戦第一試合、戸愚呂チーム鴉選手!浦飯チーム蔵馬選手!」

樹里の宣言の直後、鴉が口を開いた。

「そのままで、いいのか?」

妖孤の姿でなくいいのかと問う相手を、蔵馬は睨んだ。

「貴様を倒すためなら、何にだってなってやる」

蔵馬の周りをバラの花弁が舞った。いい香り、とはくんくんと鼻を動かした。鴉は躊躇することなく、蔵馬へと近づいた。
なかなか華麗だ。も好きそうだな。鴉はマスクの下の口の端が持ち上げた。

「もう一度聞く。そのままの姿でいいのか?」

圧倒的な妖力の差を見せつけながら、鴉は地面を蹴った。スッと手を振り上げた。それから逃げるように蔵馬は後ろへ跳んだ。ローズウィップを出すが、鴉は向かってきたムチを爆発させた。
実力の違いを知りながら、まだあきらめないとは、健気だな。鴉は目を細めた。

「まるでのようだ」

ぼそりとマスクの下で呟かれた言葉は、誰の耳にも入らない。


『まだ負けてないもん!』

幼い少女は強くなるために向かってきた。左京や戸愚呂を自分が守るんだと言う子供を、いつもなら戯言をと相手にもしなかっただろう。そばで爆発する爆弾に震えながらも向かってくる姿に、いつの間にか愛おしさを感じた。


やはり私は、そんなお前が好きだ。よく似た目をしている。
だが、好きな者にどんなに愛情を注いでも、いつかは老いて死んでいく。ならば、私の手で殺してやる。私はいつでもそうしてきた。ちらりと鴉はを見た。

「例外は一つでいい」

ひっかくように右手を蔵馬へ向けた。蔵馬は右左へと振り回される手を避けていった。
愛する者が私の手にかかり死ぬとき、たまらなく快感を覚える。





「うああ!」

蔵馬の右足と左腕から血が飛んだ。
VIP席にいればよかったか、とつまらないと言いたげな左京の言葉に、は振り返りわずかに口をとがらせた。しかし、戸愚呂は、これからですよ、と告げ、再びリングへと視線を戻した。リングの上では、鴉が自分の能力の説明をしていた。

「おしゃべりも飽きた。そろそろ死ぬか?」

最後に具現化してやろうと言った鴉の右手には誰の目にもその物体が見えた。

「爆弾だ」

それが投げられたと同時に大きな爆風を遮るようには右腕を上げた。視界が開けると鴉の手にはバラが刺さっていた。

「なに・・・?」

突然感じた大きな妖気には、背筋にぞくりと感じた。

「際どかったな。南野秀一の体じゃ粉々だった」

裏御伽チームで見た蔵馬の妖孤の姿に息をのんだ。

「クエストクラスと会えたのは嬉しいが、お前は殺すぞ」

穏やかな学校で見かける南野秀一とは違うその言葉に、は改めて蔵馬が妖怪なのだと理解した。

「死ぬのは、お前だ!」

物騒な発言はいつもの鴉だ。だが、いつもより余裕が無さそうな鴉をは初めて見た。
鴉の爆弾が爆発し、煙の隙間から巨大な植物の真ん中で蔵馬が、魔界のオジギソウは気が荒い、と笑った。

「あれが、魔界の植物・・・」

の呟きに左京は幼いころにした話を覚えていたのか、と思って笑った。

「楽しいねえ」
「これからますます面白くなりますよ」

オジギソウは次々と鴉へと襲いかかった。燃えても襲ってくるオジギソウを更に避けていく。逃げ回る鴉を見たのは初めてのは、珍しいものを見ている気分だった。

「あぶない!」

が叫ぶと、鴉がオジギソウにつかまった。丸いボールのようにオジギソウが重なりあい、まるで食事をしているように動いていた。試合続行不可能とみなされた瞬間、オジギソウが爆発した。

「鴉!」
「誰が、戦闘不能だと?」

は嬉しそうに呼んだ。鴉と目が合うと、樹里は慌てて宣言を撤回した。初めて金髪になった鴉に、初めてづくしだ、と目を見開いた。

「鴉のマスクが外れた」
「やばいねえ。左京さん、俺の後ろにいたほうがいい」
「ほお」

兄の言葉に戸愚呂が続いた。左京は戸愚呂の後ろに下がった。

「死ね!」

鴉が叫ぶと、戸愚呂は再び口を開いた。

「手加減するつもりがないな。もう少し下がったほうがいい。も構えておけ」

視線だけ戸愚呂に一瞬向けた後、は鴉を再び見た。
大きな爆音と同時には一瞬のうちに結界を張り、青白い光が瓦礫をはじいた。戸愚呂達の分まで瓦礫をはじいたことを褒めるように、戸愚呂はの頭を撫でた。それを見た左京は微笑んだ。
浦飯チームは飛影以外が飛ばされていた。
そして、石版の間から出てきた蔵馬は、が見慣れた姿だった。その髪は先ほどまでの銀髪ではなく、赤だ。
バラが武器になることなく散った。妖気が残っていない証拠だ。

「ギブアップを宣言しろ。楽に殺してやる」

まさか肉弾戦を挑むとは思わなかったはまっすぐ向かっていく蔵馬に驚いた。まるで舞っているようだと感心した。しかし、それはシマネキソウを放った所で終わった。

「マッディボム」

ガシャンとリングから爆弾が生えた。は見覚えのあるそれに顔をしかめた。以前鴉が相手にしたときに使われたのだ。手加減されていたとはいえ、あれは痛かった。

「蔵馬・・・!」
「蔵馬動くな!かこまれてるぞ!」

が息をのむように呟いたと同時に幽助が叫んだ。爆弾に囲まれた蔵馬はおそらくそれが見えていない。蔵馬の悲鳴が響き、膝をついた。

「終わりかな?」
「鴉のやつ、戦いを楽しんでいる」
「まあ、じっくりと仕上げを見させてもらおう」

戸愚呂と左京の会話に、はやはり鴉の勝ちかと、いつの間にか力の入った体から力を抜いた。

「ご褒美にその美しい顔だけは綺麗なまま残してやるよ。そのほうがも喜ぶだろう」

ちらりと鴉はを見た。心配の色を含む目に、笑みをこぼした。
誰の心配をしているのだろうか。ああ、やはりこの男が死んだらは涙を流すのだろうか。
涙で歪む表情を想像して、鴉は一人笑った。頭部だけ残して飾ったら、はともに愛でるだろうか。

「さあ、じわじわいくか」

次々と爆弾が爆発していき、蔵馬がついに倒れた。

「カウントなどいらん。生きるか、死ぬかだ」

止めだと言わんばかりに、鴉が蔵馬へと手をかざした。

「死ね!」
「お前も死ぬんだー!」

蔵馬の周りを一気に妖気が包み、突然吸血植物が現れた。
は息をのんだ。鴉の胸には吸血植物の一部が刺ささり、倒れた。

「鴉・・・?」

小さく呼びかけた声に答えるのは、吸血植物が鴉の血を吸いつくす音だけだ。それを呼んだ本人へ目を向けると、相変わらず地面に伏したままだ。

「まさかふたりとも?」

信じられない光景を見るようなを、戸愚呂は横目で見た。しかし、が再び息をのみ、その原因へと目を向けた。

「蔵馬・・・!」

リングの上では、蔵馬が生き残っていた。初めてだ、とは思った。



きてしいとのは





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