「・・・玄海さん」
信じられないものを見るように目の前に立った人物を呼んだ。
「お前さんが、だね」
死んだのでは、という言葉は出なかった。すぐに状況を察したは、ハハッと笑って、目を覆った。
「優勝者にはどんな望みも叶える、ですもんね」
「万が一のため、と言っておったそうじゃ」
二人の脳裏には、不器用な生き方をした男が浮かんだ。
「あやつからの伝言じゃ」
ぱっと手を外して現れた目は早く聞きたいと訴えていて、玄海は笑った。
『あいつは、どこか生に無頓着でな。家族と呼んだやつが、全員いなくなっちまったら、更に執着をなくすだろうからな』
『それなら、なんでこんな道に・・・』
『それとこれとは、別だからな』
『子供苦手だったんじゃないのかい』
『さあな』
本当にバカな男だ、と幼い子供のような眼差しを向ける相手を見て思った。
「『生きろ』」
だそうだ、と告げた玄海に、はぱちぱちと瞬きをした。そして、フッとどこか悲しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
は頭を下げ、礼を言った。そして、ゆっくりと顔を上げた。
「それじゃあ、優勝式とでもいきましょうか」
先ほどまでの切ない雰囲気を消してへらっと笑った少女の姿をみて、なんとなく戸愚呂が可愛がった理由がわかった気がした。
霊力を持っていれば妖怪に狙われる。身を守るための術は必要だ。だが、それ以上にそばにいたのは、いつの間にか消えていそうな雰囲気を纏っているからか。
「きっと、皆驚きますね」
の言葉に玄海はフッと笑った。二人は同時に歩き出した。風がふわりと二人の間を通った。
「あんたのことも頼まれたよ」
玄海の言葉には苦笑した。すいません、と。
「アンタが謝るこたないよ。あやつが勝手に言ってただけだ」
「でも、頼まれたら断れないでしょう」
あたしゃそんなお人よしじゃないよ、と玄海は返した。
「まあ、気が向いたら家にくればいいさ」
驚いたは足を止めた。しかし、玄海はその足を止めない。
「おいおい、なんて冷たいんだろうね」
少し大きな声で玄海が言った。
その声に、ぎょっと驚いた面々が見えた。玄海が足を止めた。
「玄海師範!」
「ばあさん!」
嬉しそうに駆け寄っていく面々には微笑んだ。
小さな優勝式
UP 03/20/14