朝になると、御手洗が目を覚ました。

「よお」
「こ、ここは」

幽助と蔵馬は、桑原の友人達が無事であることを伝えると、話すように促した。

「しゃべりやがれ」

大きな桑原の寝言にビクリと御手洗は震えた。は、かきはひろしまだ、と続けた桑原に、一体何の夢だ、とつっこみたくなった。

「僕たちは、生きていちゃいけないんだ」

ポツリと呟くように言うと、君たちの仲間のことか、と蔵馬が問うと、御手洗は否定した。

「人間全部さ」

は目を細めた。呟くように、お前らだって、というと御手洗は、幽助と蔵馬を見た。

「お前らだって、あのビデオ見ればそう思うぜ!」

睨むように幽助たちを見た。

「ビデオ?」
「なんだそりゃ?」

ぼたんと幽助が聞き返した。

「黒ノ章って言うビデオテープさ」

蔵馬とが目を見開いた。

「黒ノ章?」

蔵馬が繰り返すと、御手洗は頷いた。

「そうさ。今まで人間がどれだけ非道な事をしてきたか、一目でわかるビデオだ」
「蔵馬、知ってんのか?」

幽助が問うと、蔵馬は霊界に収められている極秘のテープだと説明した。

「極秘テープ?」
「人間の影の部分を示した犯罪記録です。飛影が欲しがっていた」

何万時間というもっとも非道な映像を収めたものだと説明した。
いまいちわからないような顔で蔵馬を見た幽助の顔を見て、やっとが口を開いた。

「簡単に言えば、拷問ビデオよ」

幽助たちはバッと振り返った。

「知ってんのか!?」

ええ、とは頷いた。

「昔、父さんの書斎にそれのコピーがあったわ」

まさか、と蔵馬は呟いた。見たのかと問いかけるような目に、けろりとは答えた。

「ええ、見たわ。全部ではないけどね」

御手洗は信じられないものを見るような目でを見た。

「ならわかるだろ!?人間の醜さが!」

叫ぶようにかけられた声に、はどこか冷めた目を向けた。

「人間が今までどんなひどいことしてきたか。お前らは知らないんだ。だから善人ぶって居られるんだ。お前らだってあのビデオを見れば価値観変るぜ」

御手洗は、幽助たちへ視線を向けて言った。

「だからって人間全部が妖怪の餌になっちまえってのか!?」

幽助は椅子を蹴りあげて怒鳴るが、御手洗はそうだと肯定した。お前は自分がどんな生き物か知らないのだと。

「お前、殺されるために並んでる人間の列を見たことがあるか?明日殺されることがわかってて、おもちゃにされてる人間を見たことあるか?それを笑顔で眺めてる人間の顔をよ!目の前で子供を殺された母親を見たことあるか!?その逆は!?」

ヒステリックに叫ぶ御手洗を体を震わせた。蛍子が気持ち悪さに口を押さえ、部屋を出た。

「人は人を笑顔で殺せるんだ」

御手洗の言葉に、が口を開いた。

「くだらない」

きっぱりと言われた言葉に御手洗は体を強張らせた。ハッと全員がを向いた。冷たい表情に蔵馬と幽助は驚いた。

「人間も妖怪も変わらない。弱いやつもいれば、強いやつもいる。人間と妖怪の違いなんて、女と男ぐらいの差でしかないわ。良いやつも悪いやつも、所詮個人差でしかない。人間だから悪い、妖怪だから悪い、そんなのは愚かで極端な考え方でしかない」

御手洗は、涙を目に溜めていた。目の前にいるのは小さな子供だ、とその姿を見て思った。

「現に貴方を助けたのは人間よ」

は、桑原を目で示した。ベッドの上で大口を開けて眠り続けている。

「俺よ、桑原に聞いたんだよ。なんでこんなやつ助けたんだってよ、そしたらアイツなんていったと思う?」

幽助が前日の出来事を告げた。

「おめえが助けてくれって言ってるように見えたんだとよ。そんときは笑っちまったけど、今のお前見てるとなんとなくわかるぜ」

は同じように思っていた。御手洗は、悪夢を見た後に助けを求めている子供の姿そのものだ。うああ、と御手洗は泣き出した。

「夜寝るとそのビデオの夢でうなされて、目が覚めちゃうんだ!夕べも殺された人たちが皆こっちを見てやがった!まるで僕がやったような気になってくる。どんどん自分が薄汚い生き物に見えてくるんだ」

は、どうかなにそうになるんだ、と罪を告白するように言う御手洗の頭を撫でた。

「すこし休みなさい。ここは安全だから」

蔵馬と幽助はお互いを見た。

「休ませてやりましょう。彼はもう無害ですよ」

そう言うと二人はベランダに出た。

「そんなにひでー内容なのかな」

黒ノ章に対しての幽助の問いに蔵馬は、想像はつきます、と返した。

「普通の人なら五分と持たずに、人間の見方を変えてしまうでしょうね」
「脅かすなよ」

幽助が不安になるだろうという。

「心配なく。邪悪な心はあくまで人間の一面でしかありませんよ」
「そう、だよな」
「しかし、彼が人間のすべてだと思ってもおかしくはないな」

それだけ内容がきついのだと告げると、コピーを見たというが二人の脳裏に浮かんだ。

「・・・そんな風には見えねーよな」
「まあ、さっきの話からしても、人間の一面でしかないということを理解してますしね」
「いつ、見たんだろうな」

昔とが言ったことから、幼いころだったことは確実だろう。
そして、改めてのことをあまり知らないことを実感した。確かに付き合いはまだとても短いが、それにしたって知らないことが多すぎた。




謎だらけの彼女





UP 04/03/14