は御手洗の涙が落ち着くと、女性陣に治療を任せて、すでにコエンマとの通信を終えた幽助たちのいる部屋へと移動した。
すると、仙水忍という人物が今回の首謀者だと事情を説明された。
「霊界探偵だった、ってなんでまた・・・」
「詳しくはこれからコエンマが来て説明する」
玄海の言葉を受けは質問するのをやめ、いつものように、お茶でもいれましょう、とキッチンへと向かった。キッチンから出てくると、すでにコエンマが来ていた。
「お久しぶりです」
「元気そうだな」
「おかげさまで」
コエンマは、フッと笑んだ。しかし、内心これからする仙水の話を考えると、気が重かった。
は、それぞれの前に湯呑みを置くと、空いている席へと座った。
すると、幽助たちは矢継ぎ早にコエンマに問いかけた。ごほん、と咳払いをするとコエンマが話し始めた。
「仙水は生まれながらにして、強い霊力を持っていた」
霊や妖怪に狙われながら生きてきたのだとコエンマが告げた。
そして、正義感が強いやつだった。コエンマは若いころの仙水を思い出していた。
「そんな奴が一転して人間不信に陥る事件が起こった」
自分の指令がきっかけだったのだと告げた。その指令は、魔界に通じたトンネルを塞ぐことだった。そのことに全員が驚いた。
「低級妖怪を召喚するための小型のトンネルだった」
それを行っていたのは、ブラック・ブラック・クラブだと告げた。
「召喚された妖怪は捕えられ巨額の金で取引されていた」
「ブラック・ブラック・クラブといやぁ」
「雪菜さんを閉じ込めていたやつらじゃねえか!」
驚いた様子の二人にコエンマは頷いた。
「そして、その時妖怪捕獲のスペシャリストとして台頭していたのは、左京だ」
ぎょっと幽助は目を見開いた。
「左京!」
「やろー、俺が幼稚園ぐらいの時からそんなことしてやがったのか!」
は手の中の湯呑みを見た。本当はおそらくもっと前だ、とは思ったが口にはしない。
「人間が妖怪をブローカー兼ボディガードとして雇い、売買用の妖怪を捕える。そのシステムを作ったのが左京なのだ」
コエンマは、そう説明すると仙水にその屋敷へ向かうように指令を出したのだと説明を続けた。コエンマは、目を閉じた。
「組織の幹部をあと一歩という所まで追いつめた。しかし、そこで仙水は、見てはならないものを見たのだ」
「見ては、ならないものって?」
「一体何なんだ?」
早く答えを求めた二人が先を促した。コエンマは目を開いた。そして、今度はがゆっくりと目を閉じた。
「人間の悪の極みとも言える営み。この世とは思えぬ、悪の宴だ」
血に染まった真っ赤な部屋では、人間たちが召喚した妖怪たちを弄び、虐殺していたのだ。
「仙水が長い間忌み嫌っていた妖怪よりも、残酷で醜いものであった」
実際には見たことはなかった。だが、はそのようなものが行われていたことは知っていた。左京は決してそれを自分の屋敷では行わなかった。
正確には、を引き取ってから左京はその企画を辞めたのだ。だが、は過去に行われたそれを資料で知った。そして、もう行われていないこともわかり、知ってほしくないとわかっていたから、知らないふりをしたのだ。
「仙水はそこで自分の持っていた価値観とは全く逆のものを見てしまったのだ」
桑原と幽助は、自分たちが垂金の別荘に乗り込んだときと似ていると言った。しかし、コエンマは決定的に違う点があると告げた。
「奴はそこにいたすべての人間を殺した」
それから黒ノ章に興味を持ち始めたのだ、とコエンマは告げた。人間を憎みはじめたのだと。
湯呑みを持つの手に力が自然と入った。すでに左京が屋敷が出た後でよかったという安堵。一人の青年の世界が反転したことへの哀れみ。二つの感情がの中で交ざった。
「けっ、これだからくそまじめな奴は、始末がわりーよな。極端から極端へ走りやがる」
その言葉にコエンマは幽助を見た。
「ああ、それで次の霊界探偵にはふまじめな奴を選んだのだ」
「ああ、なるほど!」
蔵馬の言葉に、納得するこたーねーだろ、と幽助は睨んだ。
コエンマはを見た。落ち着いている。視線に気付いたは、湯呑みからコエンマへと移した。そして、フッとわずかに自嘲気味な笑みを浮かべた。
「――」
コエンマが口を開こうとしたと同時に、バッと蔵馬と幽助とは窓の外へと振り向いた。
「仙水!」
反対側のビルでは、二人の男が立っていた。は、オールバックの男の顔に目を見開いた。
戦う運命
UP 04/03/14