【ある夜の小さな会話】
休憩室というには大きな部屋からは宇宙が見える。宇宙に時間の感覚なんてほとんどないが今は夜だ。静かなその部屋に入っても話し声は聞こえない。
「疲れたな・・・」
一人で呟くと一つのソファーに人影が見えた。
・。
ヘリオポリスに居たタダの民間人・・・だった。MSを信じられないくらいに上手く操って、宇宙での戦闘に出た彼女。いくらコーディネーターでも信じられないくらいの強さだった。
元々なのか、遺伝子を操作した為なのか、子供とは思えないくらいの美しさ。眠っている今は、まるで死んでいるように見えた。
「私の顔に何かついてます?」
ビクッとらしくもなく驚いて過剰に反応した。目を見開いてまだ目を閉じたままの声の主を見る。
「誰も来てない筈だからいたずらはされてないと思うんですけどね」
ゆっくりと目を開くと微笑んだ。
「起こしちまったか?」
「いえ・・・ちょっと考え事を」
少し自嘲と苦笑が入り混じった笑みを浮かべた。
「フラガさんはどうかしましたか?」
「いや、ちょっと散歩に」
戦艦の中で散歩って、ないだろ。咄嗟に出た言葉に自分で突っ込みそうになる。
「寝た方がいいですよ?いつ戦闘になるかわからないんですし」
それは嬢ちゃんも同じだ。嫌がっていてもフェリスに乗って戦闘に出ている。まーな、と軽く返すが少し真剣な声音で問われる。
「・・・眠れませんか?」
宇宙に眼を向けた嬢ちゃん。
「情けないよな」
思わず考えていた事を言う。彼女は不思議な人間で何故か何でも本当の事を言ってしまう。
「情けない?何故?」
強い意思を持ったブルーグリーン瞳が全てを見透かしているようで隠す事を許さない。
「こんな戦場の真中に居るのにすぐに眠れる人間なんて居ません」
全てを知っているような声が答えをくれるような気がしてしまう。
「戦闘に出る人間なら特に」
優しい眼で俺を見ると隣に座るように促される。素直に従うと軽く引っ張られて柔らかい感触が頬に触れる。
「お、おい・・・」
大の大人が年の離れた女に膝枕してもらってどうするんだよ・・・
柔らかい手が俺の髪を梳きだした。
「大丈夫。今は静かな時だから。眠っても大丈夫」
そっと囁かれた言葉に何故か安心感を覚えた。そして、瞼が重くなっていく。
「なぁ・・・あんたは、一体・・・・・・」
それだけ呟くと眠気の方が勝ったフラガは寝息をたてはじめた。
そんな子供のようなフラガには笑みを零した。
「私は、・ですよ。ムウ・ラ・フラガ」
UP 05/26/05