【覚悟を決めました】
「アスラン・ザラが・・・?」
「そう。君と同じフェイスになってもらう」
仲良くしなさい、と笑顔で言われた後、通信を切った。
アスラン・ザラを敵対視しているシンがどれだけ不満を言うだろうか?
思わず溜息が出た。
「どんな態度取ればいいのよ・・・」
私を通して誰かを見ている、アスラン・ザラ。過去の私なのか、別人なのかは知らないけれど。彼がミネルバに乗ると言う事は、共に時間を過ごすと言う事。その上、同じフェイスになると言う事は、私がフェイスである事がばれると言う事。
「シン、怒るかなぁ・・・」
フェイスであると言う事の説明は誰にもしていなかった。さすがにレイは知っているけれど、シンには説明していなかった。きっと怒らなくても、仲間外れにした、と拗ねるだろう。
「大体なんで戻ってきたんだろう?」
彼はオーブのカガリ・ユラ・アスハの護衛ではなかったか?
私の溜息は尽きなくて、いい加減に暗い思考を止めようと部屋を出た。
「」
廊下を少し歩いていると後ろから声をかけられて驚いた。
「艦長・・・おめでとうございます」
アスラン・ザラと共に艦長もフェイスになった、とさっきギルが言っていた。
「その様子だと、聞いたのね」
私の言葉に艦長は、苦笑した。
「ええ。つい先程」
「そう」
「あの人も、この艦に来るそうですね」
それだけの単語で私の言おうとした意味がわかったらしく艦長は頷いた。
「まったく、議長も何をお考えなのか・・・」
「さあ?」
私に聞かれても、わからない。ギルが何を考えているのか。むしろ私が聞きたいぐらいなのだから。
「艦長」
「・・・?」
「貴方は、どうお考えですか?」
なんとなく、訊いてみた。もしかしたら艦長なら何かを知っているかもしれない。
「そうね・・・」
少し目を伏せた後、考える仕草を見せた。
「正直、わからないわ。全くといっていいほど」
困ったように微笑んだ艦長は、まるでギルを思い出しているように見えた。
「昔から何を考えているのかわからなかったのかもしれないけどね」
艦長とギルが何らかの関係を持っているのは知っていた。だけど、まさか艦長からこんなことを言われるとは思わなくて、驚いた。
「艦長」
なに?と母親のような微笑みを浮かべた相手をまっすぐ見て私は訊いた。
「もしも、自分が記憶を失ってしまって」
突然の話題に不思議そうな顔をして私を見た。
「昔、愛していた人とまた出会ってしまって」
?と不思議そうな声で私を呼んだ。
「相手が自分を覚えているのに、自分は相手を覚えていなかったら、どうしますか?」
自分でもなんでそんな事を訊くのかわからなかった。ただ、本当に自然に出てきた質問だった。
「私だったら・・・」
艦長は突然のことに怪訝な顔をした後、答えてくれた。
「・・・逃げないで、過去と向き合うわ」
優しい笑みを浮かべて、告げられた答えに私は目を丸くした。
「思い出すのが恐くても、きっと。逃げない」
艦長が強い人だ、と改めて思い知らされた気がした。
「だって、逃げ出すのなんて、かっこ悪いじゃない?」
少しいたずらっこのような笑みを浮かべた艦長に、私は思わず笑ってしまった。
「そうですね」
昔の自分が何者であろうと、今の私は、今の私なんだ。
「艦長の言うとおりです」
なら、向き合って見せましょう。
「逃げるなんて、かっこ悪いですよね」
たとえ、見つけた真実が、どんなに惨酷なものでも。
UP 11/12/05