「あれ?は?」
「彼女なら、艦長たちと行ったらしい」
「え?」
「なんで?」
「さあね」
ノイマンとミリアリア達の会話をさりげなく聞きながら部屋を出ると、キラは胸の奥に痛みを感じた。
が、どうして?
【かなわない】
「で、二人で話って、なにが目的だったわけ?」
ムウの問いに、は笑った。
「若いパイロットで驚いたみたいです」
ナタルが睨みつけてくるが、はそちらに視線をやらない。心配そうなマリューに微笑んで見せている。
「艦長の思うようにしてください。技術協力ぐらい、なんでもありません」
その言葉に、ナタルは反対したが、マリューは、ありがとう、とウズミの条件を飲むことを告げた。その答えに満足したは、では失礼します、と部屋を出た。
「嬢ちゃん」
しばらく出てこないだろうと思っていたムウがすぐに追ってきて、の手首を掴んだ。突然の事には驚き、振り向いた。
「艦長に追い出されたんですか?」
からかうように言うが、ムウの真面目な雰囲気にそれ以上言うのはやめた。
「どうしました?」
「本当は、何を言われた?」
その問いには苦笑した。
「本当に、特別なことは何もありませんよ」
ジッと見つめる目に、居心地の悪さを感じながらもは微笑んで見せた。
「坊主とは、何があった?」
意外な問いには瞠目した。
ムウは気付いていたのだ。砂漠の虎を倒してから、とキラの関係が変わった。
は相変わらずキラを見守るように、マードックとキラが話しているときは傍にいる。けれど、それ以外のとき、二人が一緒にいるところを見なくなったのだ。代わりにキラはフレイの傍にいる。とてもじゃないがその選択は間違っているとフラガはキラにいいたくなった。
「・・・何もありませんよ」
どこか悲しそうな微笑みに、ムウは顔を顰めた。そんな顔がみたいわけじゃないのだ。の手首を引っ張った。
「フラガさん?」
突然抱きしめられたことには困惑した。
「・・・なんで、強がんだよ」
吐き出すようにいわれた言葉には驚いた。
「なんで、甘えないんだ・・・!」
ぐっとムウの腕に力が入った。なぜ自分じゃないのか、と吐きだしそうになった言葉を飲み込んだ。
「大丈夫ですよ」
そっとの手がムウの背に触れた。とても柔らかい声音は、まるで母が子を慰めるようだった。
「貴方が苦しむことなど、何もありませんよ」
つんと鼻が痛くなった。ムウは、どっちが大人かわからないじゃないか、と情けなさを感じた。
「好きだ」
少し身体を離したムウがまっすぐを見た。は突然告げられた想いに驚き、目を大きく見開いた。しかし、すぐに微笑みに変わった。
「ありがとう」
ふんわりと笑んだを再び抱きしめた。
ムウは、いつのまに好きになってしまったのだろうか、と考えた。同じ想いを相手が持っていないことなどわかっていても、それを返してもらえないことに落ち込むなど、なんて身勝手なんだろうか。
そして、自身の行動を恥じた。思わず口から想いが出てしまうなど、ガキじゃあるまいし。
それを隠すように、ぐっと再び腕に力を込めた。抵抗される気配はない。甘えろといっておいて、自身が甘えることになるとは思わなかったムウは、しばらくその体勢でいることにした。温かい体温と甘い香りに包まれたまま、優しい手が背を撫でるのを感じながら。
UP 06/11/14