失った記憶の中に何か大切な物があるはずなのに。
私はそれを思い出せない。
【降下する中の嘆き】
「シン!アスランさん!」
『!』
「帰還命令は出てるはずですが?」
すると少しでも砕いた方がいいだろう、というアスランさんの答え。それはそうだ。私は同意すると援護する事に決めた。
『!』
後ろからユニウスセブンの軌道を変えた張本人のジンが近づいてきた。グッとペダルを踏んでシンやアスランさん達の所へ行かないようにブレードを取り出す。
「諦めの悪い人ですね・・・!」
そこまで地球にユニウスセブンを落としたいの?
『何故止める!?』
何故?それはこっちが聞きたい質問。
「一度収まった争いに再び火をつけて、一体何を望む!?」
通信に叫び返す。
『我が娘の墓標、落としてやらねば世界は変わらん!』
怒りを耐え切れずに叫ばれた言葉。
『此処で無残に散った命の嘆きを忘れ、撃った者達と何故偽りの世界で笑うか!』
「だからといって、此処で再び争いをはじめて一体何になる!?それで娘が帰ってくるのか?!」
こんな風に憎しみを増やしても、死んだ者達は生き返らない。
『黙れ!何故、気付かぬ?!我等コーディネーターにとって、パトリック・ザラの取った道こそが正しき物だと!』
通信の向こうでアスランさんが息を呑んだのがわかった。
記憶を取り戻そうと資料を読んでた時に見た名前。パトリック・ザラ。アスラン・ザラの父。前最高議会議長。
「世界は変わった!デュランダル議長の下で!今のプラントは以前とは違う!」
『クライン派の男は世界を知らぬ!』
ギルがあんなに頑張ってるのに?資料に書いてある世界とは違うのに?
「何を言う?!続いていた争いが無くなったのに!」
『それが間違いなのだ!世界は惑わされたのだ!ラクス・クラインという小娘と!』
男の次の言葉にヒュッと息を呑んだ。
『・という魔女に!!!!』
・?
私の名前?
魔女?
誰?
まじょ?
だれ?
『パトリック・ザラの取った道こそが正しき物だったのだ!!』
叫ばれる言葉にシンもアスランさんもまるで凍ったように動かなかった。
「アスランさん!」
私が叫んだ次の瞬間、男がアスランさんの右腕を切った。シンの方へ向かうジンへペダルを押した。
「シン!」
シンのインパルスに取り付くと、ジンが爆破した。
「シンッ・・・!」
インパルスは衝撃で吹き飛んだだけらしくシンの声が通信から聞こえた。最後にメテオブレーカーが発動したけど、少し小さく割れただけ。
「暑ッ・・・」
コックピットの温度が上昇し始めた。大気圏に突入し始める合図。
「シン、大丈夫?」
『アリス・・・』
「アスランさん!」
シンからアスランさんに目を向けるとジンに足を掴まれた姿。
「諦めの悪い!」
小さく舌打ちした私よりも早くシンはアスランさんのザクの足を切った。ジンは重力のまま降下し、真っ赤に染まる。
「シン!」
ザクの腕を掴んだ状態のインパルスに近づく。機体の腕を伸ばしてインパルスとザクの腕を掴んだ。それぞれタイプの違う三機の機体は自然の力でゆっくりと下へ向かった。
『君は、・だ』
『・という魔女に!』
わ た し は 、 だ れ ?
UP 12/28/06