「君に会わせたい人が居るんだよ」
「会わせたい人?」

綺麗な笑みを浮かべたプラント議長に首を傾げた。

「そう。是非、会ってもらいたい」



【懐カシキ感覚】



リハビリとは名ばかりの散歩をフラフラすることにした。
散歩といっても一応保護されている身だから軍の限られた場所しか歩けないけれど。

「それでもこれだけ歩けるって言うのは、やっぱりギルのおかげかしら」

あまり人の居ない廊下で一人呟く。
話し相手もいない為、返事はない。
本や新聞を読む以外に何もする事のない私はよくフラフラと歩き出す。
記憶のない状態の私には現状を知るには時間があることは丁度よかった。

日常的な話題や国交の問題。
自分が発見された場所のすぐ傍であった大戦や、プラントの事。
興味を持ったジャンルなら専門書も読んだりした。
確かにいい時間ではあるけれど、やっぱり少しつまらない事には変わりない。

「そういえば会わせたい人って誰かしら?」

プラントの最高権力者の言葉を思い出した。
まあ、いいか。どうせそのうちわかることだし。

ふと窓の外を見ると数人の若い少年達。
体術の練習をしているようで、ゆっくりと動いている。

「あ。転んだ」

足が間違って引っかかって一人が転んだ。
それでも楽しそうに笑っている彼等が少し羨ましく思えた。
転んだ少年が立ち上がって再び練習を始めるのを見ると、私はまた歩き出した。

「ッ・・・?」

キィン、と耳鳴りのような物が聞こえた。

「な、に・・・?」

心の奥で何か懐かしい感覚がする。
どうして、と不思議に思いながら歩きつづけた。

この感じは一体何なんだろう・・・?



「何をしている」

突然聞こえた声にハッと顔を上げる。
男にしては長めの金髪の少年が立っていた。

「あ・・・・・・」

初めて会うはずの人。
それなのに、何故か懐かしい感じがした。

「何をしている」

相手の態度からして特に知り合いなわけではないようだった。
失われた記憶の中の人間じゃないようで、少し安心する。

「すいません。ちょっとぼんやりしてて」
「此処は民間人は立ち入り禁止のはずだが」

言われて初めて自分のいる場所に気付いた。
さっきまで聞こえていた耳鳴りに誘われるように進んだから自分が何処に行こうとしているのかを見ていなかった。
ここのあたりから先は正式な軍人と関係者のみ通れる場所。

「そうですよね。ちょっと考え事をしてて周りが見えてなかったみたいですね。」

一応あっちの病院の患者なんです、と付け足してIDを見せる。
そうか、と頷いた後、何も言わない彼との間にしばらく沈黙が流れる。

「・・・・・・」
「えーっと・・・」

ただジッと私を見る相手に困った。
特に話す必要はないはずで、彼ももう此処に居る意味もないはず。
何を言えばいいのかわからないまま、沈黙に耐えられず口を開いてしまった。

「あの、私の名前は、です。貴方は・・・?」
「・・・レイ・ザ・バレルだ」

バレルさんですね、と微笑むと彼は一瞬目を見開いた後、私から目を逸らした。

「いや、レイで構わない」
「なら、私も、と呼んでください。レイさん」
「・・・ああ」

一瞬戸惑ったように間があって頷いたレイさんを不思議に思いつつも私は笑みを浮かべた。

「病院、と言ったが・・・」
「はい。でも病気ではなく怪我だったので、もうすぐ退院するんですけど」

苦笑して言うと、レイさんは、そうか、と返してくれた。
そして、病室に戻るのか問われると頷いた。

「送ろう」
「え、でも・・・」
「丁度時間がある。構わない」
「・・・ありがとうございます」

特に言葉を交わす訳でもなく、レイさんと病院まで歩いた。
病院についた後、私はレイさんにお礼を言って、レイさんはまた来た道を戻っていった。
私は、その後姿が見えなくなるまでその場から離れなかった。


「レイ・ザ・バレル・・・」

記憶のない私の心の奥で懐かしさを感じさせた人。

「また、会えるかな・・・?」





◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「誰なんですか?会わせたい人って・・・」

私が何度か繰り返して問う質問にデュランダル議長はただ微笑むだけだった。
そしてそんな議長の隣を歩きながらレストランの中に入る。
連れが既に来ていると言った店の男の後をついていく。
一つの個室の前のドアを開けると、議長は、遅れてすまんね、謝った。
いいえ、という聞き覚えのある綺麗な声に私は思わず議長の斜め後ろから一歩前へ出た。

「あ・・・・・・」
「ッ・・・・・・!」

中で立って私達を見ていたのは、レイさんだった。

「おや、いつの間に会ったのかな?」

ニコニコと嬉しそうに私達を見た議長に彼が説明した。

「この間、アカデミーの近くで」
「アカデミー?」

不思議そうな顔で私を見る議長に苦笑した。

「ちょっとぼんやりしていて。何処に向かってるか注意してなかったんです」

そうか、と微笑んだ後、議長は私達を座るように促した。

「なんだか残念だね。二人を驚かせたかったのだが」
「充分驚きましたよ、議長。まさかこんな形でまた会うなんて」

私の言葉に議長は少し嬉しそうに、そうか、と微笑む。
そして、レイさんを見た。

「またお会いできて嬉しいです」
「あ、ああ・・・」

ニコリと笑みを浮かべて言うとレイさんの顔が少し赤くなって目を逸らされた。
そんな行動に首を傾げると議長は楽しそうに笑う。

「二人ともそんな畏まった言葉使いをしなくてもいいじゃないか。せっかく年も近いんだろうし、仲良くやってくれると私も嬉しいんだがね」

その後、私達は三人で夜遅くまで楽しくおしゃべりを楽しんだ。
そして、数日後もまた私はレイさんと会って、呼び名を『レイさん』から『レイ』と呼び捨てになった。
レイもまた、私の事を『』と呼び捨てにするようになった。

これが私の新しい『仲間』との最初の出会い。