「アスラン、下がって!」
聞き覚えのある、すこし中性的な声に、息を飲んだ。そして、直ぐに意識を集中させた。
キィーンという耳鳴り。熱くなった身体。細胞が破壊していく感覚。
「うわあああああ!!」
ぷつりと独特の感覚を頭の奥で感じれば、それが成功なのだと理解した。
【苦みすら感じる甘さ】
通信機を起動させた。自身が迎えに行くことはできない。
『はい』
「ブリッツの、パイロットを」
自身の荒い息に苦笑したくなった。
「海岸、のほうへ」
『わかりました』
「わるい」
『いいえ。それよりも、は、大丈夫なんですの?』
「ああ」
『なら、いいんですけど』
それじゃあ、と告げて通信を切った。
すべての人間を救うことはできない。それでも、近しい人間は救いたいと思ってしまう。
「しょせん、自己満足だな・・・」
自嘲しながら、目を閉じた。機体の背もたれに体重を預けた。
わかっている。それが愚かしい行為で、なんとも不平等な行為であるかを。それでも、そうせずには居られなかった。
『甘いな』
ふと懐かしい声が頭の中に響いた。笑いがこみ上げた。変わっていない。
あまり時間をかけてはいけない、とだるい体を動かした。
「」
マードックがずいぶんと時間がかかったな、と声をかけてきた。
「なにか、ありましたか?」
いつもと違う空気に問えば、マードックは困ったように首の後ろをかいた。そして、ついさっき起きた出来事に眉をひそめた。
「キラ・・・」
小さく呟いた声は、キラの耳には届かなかった。の視線の先には、キラと睨みあうように見つめあっているムウがいた。一瞬でも自身のことでいっぱいになってしまったことをは後悔した。キラをフォローしなければいけないのに、できなかった。
キラは、ふいとそこから立ち去った。そして、残ったムウは大きく溜息をついて、頭をかいた。
「キラを責めないでください」
後ろから声をかければびくりと反応した。
「・・・嬢ちゃん」
「あの子を追い詰めないで」
「・・・割り切らなきゃ、アイツが死んじまう」
の言葉に、ムウは眉間に皺を寄せた。
「キラは死なない」
きっぱりと告げた言葉に、眉間の皺は深くなった。
「私が守るから」
すっと表情が消えた。冷やかにも思える視線に、ムウは息を飲んだ。そして、自身の胸の奥の痛みに気付いた。
「なんで・・・」
「キラは、私の守るべき人だからですよ」
が、ふと自嘲気味に笑った。守るべき人だから、彼を悲しませたくない。本当なら前線から引いてほしいのだ。しかし戦況はそんなに甘くない。
「たまには、厳しくしてやらないと育たないぜ」
「育てたいわけではありませんから」
第一育てるのに自身は向いていない、と再び暗い方向へ思考がいった。自分は破壊ばかりしてきたのだ。そんな破壊してきた過去を清算するように人を救いたいと思うのは、やはり甘いのだろう。
UP 06/11/14