【PEACEFUL SLEEP】
「レイ」
「?」
何だ?とに問うた。
「シン、何処に行ったか知らない?」
「いや・・・」
「そっか」
うーん、と考えるように声をあげた。がシンを探している事はそう多くない。不思議なくらいはシンを見つけるのが上手いからだ。まるで発信機でもつけているような気さえする時があるくらいだ。
「珍しいな」
「そんな事ないよ」
苦笑いを浮かべて俺の隣に座った。柔らかい髪が俺の頬に触れると、肩に少しだけ重みを感じた。少し顔を動かすと長い睫毛で縁取られた目が閉じている。
「ごめん、レイ・・・少しの間でいいから・・・」
「別に構わない」
肩から膝の上に柔らかい髪が移動した。男の膝枕など居心地悪いだけだろう、と俺は思う。しかし、は、そんな事ないよ、と言う。
時々眠れない事があると俺に頼ってくる。そんなはいつもと違い少し儚く見えて、何処かへ消えてしまいそうな空気だった。けれど、そんな時には俺を頼ってくれる。そんな事実が俺は少し嬉しかった。
の肩につくくらいの長さの髪を指で梳いた。
「・・・」
の手が何かを求めるように少し彷徨った。その手に触れるとギュッと存在を確かめるように握られた。少し覗き込むと不安そうに眉を寄せていた。
「夢でも、見てるのか・・・?」
俺よりも細い手を握り返すと、ホッと安心したように息を吐いた。まるで母親を求める子供のようで思わず、ふ、と笑ってしまった。けれど、が母親を求めている訳が無い。に家族はいないのだから。いや、居ないからこそ、求めているのかもしれない。さっきより少し手に力を入れた。
「不安にならなくていい・・・」
俺は、お前を守りたい。
だから、安心して眠れ。
「こーんな所で何いちゃついてんのよ、レイ?」
バッと顔を上げるとルナマリアがニヤニヤと笑っていた。思わず顔を歪めて、誰が、と反論しようとした。
「まぁ、いちゃいちゃしたいのはわかるけど。お姫様が呼ばれてる」
「誰にだ?」
「言うまでも無いと思うんだけど」
「・・・シンか」
そう、と頷いたルナマリアに、わかった、と告げた。
「わかったって・・・起こさないの?」
「ずっと寝てなかったんだろう。疲れた顔をしていた」
「そーだろうけど・・・」
ルナマリアは、呆れた顔で息を吐いた。
「シンが拗ねて大変なのはなんだけど」
シンが拗ねたり怒ったりした時に宥めるのはの役目というのは自然に決まっていた。
「っていうか、朝っぱらからシン、不機嫌だったんだけどさ」
「・・・・・・」
「レイ、理由知らない?」
「何で俺がシンの不機嫌の原因を知ってるんだ」
「確かに」
ん、とが唸ると、ゆっくりと目が開いた。
「んー・・・あれ、ルナ・・・?」
「おはよー、」
「おはよー」
は、起き上がると髪を指で梳かして、まだ眠そうな目を擦った。髪には少し寝癖のように後が残ってる。
「、何とかして欲しいのが居るんだけど・・・」
「え?」
「さっき、演習で超不機嫌で危うく人殺すんじゃないか、って思うくらい」
「え・・・!」
なんで、と俺を不思議そうな顔で見る
どうしてルナマリアといい、といい、疑問があると俺に訊くんだ?
「人に聞くより、自分で行った方がいいんじゃないか?シンを探してただろう?」
「あ。それもそうだね。・・・ルナ、シン何処にいるかわかる?」
「さっきミーティングルームの方に居たよ」
立ち上がってシンを迎えに行こうとすると、が振り返って屈んだ。
「レイ、ありがとね」
チュッと可愛く音を立てた唇は俺の頬を一瞬触れて離れた。少し早くなる心臓の音はに聞こえる訳が無い。別に気にしていないような声で、ああ、と告げ少し笑みを見せると、は早足で行った。
「あーあ。シンの居場所教えてあげたの、アタシなのに」
「・・・?」
少し拗ねたように唇を尖らせたルナマリアが手を頭の後ろで組んだ。
「なーんでレイだけがお礼貰えんのさ」
「・・・お前な」
「ずるい」
「ずるいって・・・」
はあ、と大袈裟に溜息を吐いた彼女に怪訝な顔を見せた。しょうがないか、と呟いた後、ルナマリアが思い出したように俺をみた。
「そういえばレイ」
「何だ?」
「さっき、呼ばれてたよ」
「・・・そう言うことは、先に言え」
「はいはい」
「達は?」
「シンの居る所が、私達が行かなきゃいけないとこ」
それならと一緒に行けばよかったはず。
ルナマリアは俺の考えがわかったように付け足した。
「の苦労を減らす為に決まってんじゃない」
大体シンもレイも―――と長々と続くルナマリアの話をほとんど聞き流しながら、達のいるミーティングルームへ向かった。
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