【砂漠の上で】
レジスタンスの人間達が騒ぎ出した。砂漠の虎は本気だ、と。は、真っ白になるほど拳を握った。
『初めまして。アンドリュー・バルトフェルドです』
何かを含んだ笑みを浮かべた男を私は自身の容姿のことを笑っているのだと思った。問えば、答えは意外なものだった。
『これは失礼。まさか貴方のようなキレイな方が噂の人物だとは思わなくて』
『噂?』
『ええ』
怪訝な顔を向けても、笑みを浮かべたまま。この男は外と内では別の考えをしているとすぐにわかった。
『戦った相手は全滅だと言われる最強の『零の暗号』』
ほとんどの人間が知らない、私の二つ名を言いながら浮かべたのは、笑っていないのに笑っているような表情。
『貴方は『死んだ方がマシ』だと思いますか?』
興味を惹く男だと、その瞬間感じた。
『無駄だとわかりながら貴方に立ち向かっていった者達のように』
「貴方は死んでいった方がマシだったかしらね、バルトフェルド」
そう呟くと、真っ直ぐと前を見つめて叫んだ。
「・!フェリス!出動します!」
ヴィーン、と音を立てて機体は外へ押し出された。ザブン、とまるで波のような音を砂が立てた。上手く地形に合わせて調節された機体はスムーズにの指示に従った。虎のデザインが施された機体に目をやって、は心が痛んだ。機体を動かしながら、目を閉じ意識を集中させた。キィ−ン、という音が頭の中で鳴り、様々なコードと電波をイメージする。カチッと音が脳内で聞こえた。
『―――てください!』
キラの声にはまた、心の奥が痛んだ。投降しろと言うキラの気持ちはわからないわけではなかった。しかし、には、アンドリュー・バルトフェルドが自ら負けを認めるような人間ではない事を知っていた。
『サイファー』
ハッと、は目を開けた。
『聞いてるんだろう?零の暗号』
頭の中と機体の通信機。ステレオ効果で少し笑いを含んだ声が聞こえた。
『俺は投降する気はない。貴方なら、それはわかっているはずだ』
『何言ってるんですか!バルトフェルドさん!』
落ち着いた声と泣きそうな叫び声。モニターに移るのは二つの声の主達が戦っている姿。
どうしたらいい?
の頭はその質問の答えを色々想定していた。
「そうね・・・」
残念ながら、と言ったにキラは驚いた様に声を上げた。
『そんな!!バルトフェルドさんを投降するように!』
『そんな事は無駄だと彼女も言っているだろう!』
ストライクが動くたびに、ザザー、と砂が音を立てた。他のザフト機を空いてに、は動くたびに砂が重く感じた。
『どちらかが死ぬまで!戦いは終わらん!』
「バルトフェルド・・・・・・」
『』
『仕事中だ。邪魔するな』
機械を弄りながら言った私に真剣な声が返ってきた。
『戦争はいつ終わると思う?』
顔を上げたときに真っ直ぐと見る相手の目は真剣そのものだった。
『・・・どうして?』
『ふと思っただけさ』
仕方なく機械を置いて相手を見ると表情を変えずに答えた。そう、と呟くとまた同じ問いかけ。
『どう思う?』
答えは簡単。
『愚かな人間達が、武器以外を持った時』
眉を寄せた相手の考えがすぐにわかった。そんな時代が来るのはいつだろうか。その質問の答えは、私にもわからない。
やめてほしい、と叫ぶキラの声が響いた。
「バルトフェルド・・・」
『ようやく話す気になったかね?』
相変わらず笑みを含んだ声には眉を寄せた。
「諦めろ。お前はキラに勝てない」
『あら。私達があの子に?』
アイシャの甲高い声が聞こえては頷いた。
アイシャとアンドリューが笑った。
『そうだろうね』
『そうでしょうねぇ』
ならば、とは頼むように言うが、二人は、無理な頼みごとだ、と笑った。キラにの声は聞こえなかった。アンドリュー達も、キラへの通信を切っていた。
「バルトフェルド隊長!」
『俺の頑固さならわかってるだろう?』
は目が熱くなるのがわかった。
「私がザフトを出た理由はわかってるだろう!?」
君のそんな声が聞けるとは思わなかったな、と笑った相手には下唇をかんだ。
『理解と納得は別。そう言ったのは君だ』
そう答えた後に、アンドリューはキラを挑発する言葉を吐いた。必死になったキラの叫び声が聞こえたは、目を閉じた。
『お別れだ』
が意識を集中させると、キィ−ン、という音が頭の中で響いた。通信機の向こうではキラとアンドリュー達の言い合いが続いていた。うう、と唸りながら、体中が熱くなっていった。ビリビリと皮膚の下を何かが這うように感じると目を開いた。
「くッ・・・・―――!」
爆発音と共に映った一機のバクゥの爆発。
はあはあ、と息切れをした状態では目の前の光景を呆然と見ていた。艦からの通信から喜びの声が聞こえた。しかし、キラとの通信には、ショックを受けたキラの姿。
「成功・・・なんて、言い難いかな・・・」
胸を抑えて悔しげに呟いたの頬を一筋の涙が流れた。
「アイシャ・・・・・・」
UP 11/25/05