【二人だけの小さな食事会】
「ディアッカ、ご飯持ってきたよ」
気軽にそういうと、牢屋の中に入ってきた。他の奴等と違って、地球軍の制服を着ていない女は、自分よりちょっと年下に見えた。しかし、外見とは違い、話すと大人のようだ。
「・・・なにしてんだよ」
「ご飯食べましょう」
にっこりと笑顔でいわれてしまえば、毒気が抜かれてしまう。不思議な人間だった。殺されそうになった時にかばってきたり、定期的に俺と話しに来たり。
「俺が襲いかかったり、とか考えないわけ?」
「勝つ自信があるから大丈夫よ」
けろりといわれた言葉に顔を顰めた。これでも紅服だぞ、といいたくなったが、いうだけ無駄だろう。現に自分は捕虜なのだ。
「一緒に食う仲間もいないわけ?」
「いるわよ」
挑発的にいっても、即答されてしまった。からかいがいがない。
「ふーん、コーディネーターだからって敬遠されてるわけじゃないんだ」
「そうね。この艦の人たちは、そういうことはしないわね」
「アンタ、ストライクのパイロット?」
違うわ、と即答された。機密だなんだっていいだすかと思ったが、案外答えてくれるようだ。ぱくりとはパンをかじった。食べないの、と促されて、俺もパンを手に取った。
「じゃあ、フェリスのパイロット?」
「そうよ」
「え」
あっさりと答えられて、しかも肯定されたことに驚いた。
ストライクの派手さに気を取られがちだが、フェリスはストライクよりも強い。必死に立ちまわるストライクの大きな動きとは違い、フェリスは無駄な動きがなかった。余裕があるように見えた。実際フェリスと対峙したパイロットたちの死亡率は低かった。そのことにイザークはおそらくストライクに意識が行き過ぎて気付いていなかった。何を考えているのかわからないアスランは、気付いていたのかはわからなかった。
そのフェリスのパイロットがこんな少女だと誰が思っただろうか。
「マジで?」
「マジで」
俺の口調を真似て、フォークで指したニンジンを口へ運んだ。
「・・・アンタ、マジで何者だ?」
「私はよ」
それ以外なんでもないわ、と答えた相手の目を見た。口角をあげた表情は、以前見た柔らかいものとはちがう。どこか挑発するような、どこか妖艶なものだった。
まっすぐに問いかけたら答えてもらえるのだろうか。とてもじゃないが、そうとは思えない。評議会の狸オヤジ達やめんどくさい軍上層部を相手にしているような感覚を覚えた。
「紅服は伊達じゃない、か」
くすりと笑った相手の真意はわからない。食えないやつだ。
「ストライクよりもフェリスに興味を示す人間はなかなかいないわ」
「ストライクは動きが派手だからな」
俺がそういえば、はからからと笑った。
「そうね。軍で鍛えられた人間からすれば、あの動きはめちゃくちゃだものね」
「だからといって、フェリスの動きは軍で学ぶものでもない」
そうね、と頷いて、また一つニンジンを口にした。
「特殊部隊っていわれた方がまだ理解できる」
反応を待つが、まったく変わらない。それすら、まるで鍛えられた軍人のようだ。そう思うのは自分が疑ってかかっているからなのか。
「いくらコーディネーターでも、捕虜とこうやって平然と食事する奴なんて普通いねえし」
軍人なら確実にしない。
「でも、ディアッカは、普通にご飯を食べているわ」
ふふっと笑ったが俺を見た。その仕草は、青髪の同僚の婚約者を思い出させた。平和の歌を歌う彼女は、銀髪の同僚の憧れでもあった。皆はどうしているのだろうか、とふと隊の面々を思った。
「まあな。ここで暴れたって、外出たとたんに掴まんのがオチだろ」
「それもそうね」
けろりと答える姿は、まるで友人との会話を楽しむように見えた。
「ディアッカは、何者だ、って聞かれたらなんて答える?」
質問を質問で返すのはフェアじゃない、と文句を言いたくなりながらも、俺はその答えを考えた。
「私は、私。コーディネーターだけど、ザフトじゃない。地球軍の戦艦に乗っているけど、地球軍じゃない。私は、という人間で、大事な人たちを守りたいと思っているだけよ」
それははっきりとした意思を持った言葉だった。
「俺は、ディアッカ・エルスマン。コーディネーターで、ザフト所属だが、今は間抜けなことに捕虜として地球軍の戦艦にいる」
俺がそういうと、はぷっと吹き出した。
「そして、私たちはここで食事をとっている」
「そうだな」
「それでいいじゃない」
いまはまだ、と小さく付け足された言葉に俺は苦笑した。
「そうだな」
UP 06/15/14