【退院した後に】
「は何か希望があるかな?」
「え、いえ・・・特には」
ギルバートが微笑むとは困ったように微笑んだ。予想以上に早く退院出来る事になり、ギルバートはに住む場所を探さなければいけない、と病院に迎えに来た。二人の護衛を連れてきたギルバートにはもう既に信じられないくらいに優しくしてもらっているのだ。寝る場所さえ探せれば全く困らないのだ。それを自分の希望まで聞いてくる相手には本当に感謝していた。
「やっぱり海が見える場所がいいかな」
「いえ、あの議長。本当に、そんなに考えていただかなくても・・・」
本当に小さなアパートでもいいのだ。は困ったようにギルバートを見上げた。するとはパァンという銃声がいくつか聞こえた。それに反応したように歩いていた廊下の窓の外を見る。
病院のすぐ傍にアカデミーがあるし、今達が歩いているのは軍の施設の中なのだから不思議ではない。外は射撃場になっていて軍服を着た者達が銃を構えているのが見えた。はその時何故か懐かしさを感じた。
「あ、レイ・・・!」
「ん?」
小さく呟いたの顔が明るくなった。それに気付いたギルバートは窓の外を見た。
「今日は射撃練習みたいだね」
そう呟くとに微笑んで、見に行こうか、と問いかけた。
「・・・いいんですか?」
自分は軍人ではないのに、とは心配そうに見上げた。しかしギルバートは何とも思っていないらしく、護衛の二人に、ちょっと見学するよ、と告げた。
「レイは驚くだろうね」
「そうでしょうね」
少し悪戯っ子のような笑みを浮かべたギルバートには苦笑した。そして、近くの扉から外に出る。ピー、という笛の後に、パァン、という銃声がいくつも続いた。その響く音には頭の奥で何かを思い出しそうな気がした。
懐かしい。
銃声を聞いて感じる事ではないはずだが、は確かに覚えがあった。そして其処に居る人間ではなく銃をジッと見た。ギルバートが何か含んだ笑みを浮かべている事に気付かず。
「デュッ、デュランダル議長!?」
教官らしき人物がギルバートに気付くと慌てて敬礼した。それに倣って、生徒なのか部下なのか、他の者達も敬礼した。は自分を知っている紅服に向かって笑った。
「レイ」
嬉しそうな笑みに数人の者達が顔を赤くしたのだが、は気付かなかった。、と呟いたレイの隣に立っていた濃いピンク色の髪をした少女、ルナマリア・ホークは驚いた。まさかあのレイが小さく笑みを向ける相手がいるとは、と。
「邪魔してすまないね。少しの間だけでも見学させてもらえるかな?」
「も、もちろんです!」
「私達の事は居ないものと思ってくれ」
普段どおりにして欲しい、とギルバートが告げると周りの軍人達は少し緊張したような顔のままだった。そして教官らしき男は続けるように告げた。
ギルバートはに傍に行ってもいいことを伝えてがレイの傍に行くのを見送った。
「どうして此処に・・・?」
「今日退院できるの。それで議長と話をする事になったんだけど。その途中でレイを見つけたから」
でも邪魔だったよね、と苦笑するとは謝った。
「ごめんね」
「いや、俺は構わない」
その二人に、レイ、と少女の声が間に入った。
「次だよ」
「ああ。、少し待っててくれ」
「ええ」
観察するようなルナマリアの視線にも気にしないようには微笑んだ。
「まさかレイの彼女?」
「違う」
あっさりと否定されたルナマリアは、なんだつまんない、と呟いた。そしてそれぞれゴーグルをつけ、銃を手にする。ピー、という笛の合図ですばやく動く的を狙い、撃つ。
バンッ
パンッ
バンッ
次々と撃たれる銃弾は外れるものもあたるものもある。はそれを感情のなくなったような顔で見ていた。ただ傍観するだけの表情で立っていた。それをギルバートは何か思いついたように見ていた。そして、ピー、と再び笛が吹かれ全員が撃つのをやめ、それぞれの成績がボードに映し出された。
「あー!またレイに負けた!」
悔しそうにルナマリアがムッとした顔で言った。映し出された成績はレイが1位、ルナマリアは2位と表示されていた。
「どうだい?」
何時の間にか傍に立っていたギルバートが呟いた言葉には首を傾げた。
「やっぱり、レイは凄いんですね」
「ああ、そうだね。だがそう言う意味じゃない」
その言葉に更に疑問符が浮かぶ。そして次の瞬間ギルバートの言葉に驚く。
「彼女も一回だけ参加させてもらいたいんだが、いいかな?」
「えっ・・・!?」
「はぁ・・・!?」
教官は驚き、はそれ以上に驚いた。
「あの、議長。どうして・・・」
が問うとギルバートは含んだ笑みを浮かべた。護衛の二人が、議長それは、と止めようとする。しかしギルバートは微笑んで、いいかね、と教官に問うた。
「それは・・・議長がおっしゃるなら、できますが・・・」
大丈夫なのだろうか、と困惑した顔で見る男にギルバートは、だそうだ、との背を押した。不安そうな表情を浮かべながらは他の軍人達にまじり、ゴーグルを手にした。そしてギルバートの護衛達が再び声を掛ける。
「議長、本当によろしいのですか?」
「素人にあんな物を持たせるなんて・・・」
「心配ないさ。彼女は素人ではないからね」
護衛の二人は、え、と驚いたように自身達の護衛対象を見た。その傍でレイはギルバートを見た後にを見て心配そうな声で呟いた。
「・・・」
銃を手にするとは不思議な感じがした。ズシリと初心者なら感じる重さも丁度いい重さに感じ、握ると手にしっくりくる。銃声を聞いたときから感じていた懐かしさが更に強くなった。
知ってる・・・この感じ・・・
銃を見つめながら頭の奥で何かがひっかかる。しかしそれが何なのかわからず、的の移るボードを見た。まるで何かに取り付かれたかのようにから表情が消えた。ゆっくりと片手で的へ向けて銃を構える。
ピ―――
笛の音で頭の奥が真っ白になった。
パンッ パンッ パンッ パンッ バンッ バンッ
信じられない速さで動く的を的確に撃つ。
ガシャンッ
弾が無くなったのがわかるとすぐにリロードの動き。
パンッ パンッ パンッ パンッ バンッ バンッ
それは誰もが驚くべき光景だった。感情をなくした人形のような表情で訓練を受けている他の者達よりも早く的確に的を撃っていったのだ。
「うっそ・・・・・・」
ルナマリアは、初めて出会った少女のあまりに的確な腕に小さく呟いた。
ピ―――
再び笛が鳴ると直前に引き金を引いた弾が的を射ぬいた。
パァンッ
信じられない顔で周りは唖然としていた。そして、ボードが成績を映し出す機械音と同時にはまるで気が付いたようにハッと顔を的から視線を外した。すると、真っ赤に燃えるような瞳が二つと視線が絡んだ。まるで睨みつけるような真紅の瞳。
「え・・・・・・?」
「素晴らしいよ、」
笑顔で近づいてきたギルバートを見上げる。
「え?素晴らしいって・・・」
「一つも外していないし、何個か一つの的の同じ場所に当たっているそうだ。レイよりもいい成績を出したみたいだね」
嘘、とは驚いたように目を見開き、自分の手を見た。
どうして、撃てた?訓練なんか受けてないはずなのに。体が、覚えているようだった・・・どうして・・・?
「」
「レイ・・・」
が呼ばれて顔を上げると傍にはレイが立っていた。
「あ、えーっと。何でか知らないけど、撃てた・・・みたい」
「・・・そうみたいだな」
複雑そうな顔で言うにレイは頷いた。
「ちょ、ちょっと!一体なんなの?!信じらんないくらい上手いじゃない!」
「ルナマリア・・・議長の前だ」
「あっ・・・!し、失礼致しました!」
驚きのあまり大声をあげてしまったルナマリアをレイが注意すると緊張したようにルナマリアは敬礼した。
「いや、気にしないでくれたまえ。・・・さて、。そろそろ行こうか」
「あ、はい!」
そしてギルバートは教官に、邪魔したね、と笑って、君達もこれからも頑張ってくれ、と若い軍人達に手を振ってその場を去った。はその場を離れる時、再び二つの目と視線が絡んだがすぐに外れた。
これが新しい仲間達との出会いだと言う事を彼等はまだ知らなかった。
UP 07/30/05