『私、見つけたの』
待ってくれ・・・!
『本当の私の居場所に行くの』
嫌だ・・・!待ってくれ・・・!
『じゃあね、シン』
嫌だ・・・!
『さようなら』
待ってくれ、―――――――――ッ!
【トランキライザー】
「シン・・・・・・?」
ハッと目を開けると心配そうにが顔を覗き込んでいた。つー、と額を汗が流れた。、と名前を呼ぶとホッとしたようにが息を吐いた。
「シン」
優しい声が俺の名前を呼んだ。ソファーから起き上がると、コーヒーか紅茶飲まない?と聞かれて、紅茶、と答えた。返事を聞くとは、わかった、とキッチンへ戻った。
悪い夢を見た。が居なくなる夢。
の大事な宝物、小さな髪留め。左側だけについたそれは、の思い出らしい。
『この髪留めはね、私の大切な記憶なの』
綺麗な髪留めには小さく四葉のクローバーのデザインが入っていた。
「シン?」
首を傾げて名前を呼ぶに、何でもない、というと、変なの、と笑われた。そして、何も無かったように話し出した。
「でも、久しぶりだね。こうやってゆっくりするなんて」
「そうだな」
ここしばらく訓練ばっかりに専念していたような気がする。何日も連続して訓練を行っていた俺に、が提案した休み。の家に来て、突然眠気が襲ってきてさっきまで寝てしまった。
「ねぇ、シン」
「んー?」
がいれた紅茶を一口飲んだ。
「今度の休みは、映画かなんかに行かない?」
「映画?」
「そう、映画」
ニッコリ、とが笑って目が細くなった。薄い黄色とも金色とも判断のつかない綺麗なの瞳。
「この間出た映画、面白いって聞いたから。シンなら行くかなぁ、って」
いいよ、と答えて手を伸ばすと、柔らかい薄い紅碧の綺麗な髪に触れた。は、少しくすぐったそうにクスクスと笑った。いつもの軍服―――否、の場合は軍服ではないけど―――と違う姿は何だか新鮮だった。ソファーに座ったままの俺を床に座っているは俺の膝に腕を乗せていた。その腕の上に顎を乗せて見上げていたの頭をそっと寝かせるようにさせた。サラサラと髪を梳くと、気持ちよさそうにゆっくり目を閉じた。
大丈夫だ。は俺と居る。そう確認するように何度も撫でた。
は、とても不思議な人だ。
たまに幼い顔を見せて、マユを思い出させる。たまに温かい雰囲気を出していて、母さんを思い出させる。たまに強気な面を見せて、父さんを思い出させる。けど、普段は穏やかな笑顔で俺を癒してくれたり、逆にドキドキさせたりする。
そして、俺の心の中の変化にいつも気付いてくれる。不安な時は安心させてくれて。落ち込んだ時は慰めてくれた。
「シン」
「何?」
顔を上げて、ニッコリと笑った。まるで、さっきの俺の夢の内容を知っているように。
「今日はお昼寝しよっか」
「え?」
「折角の休みだから、もうちょっとお昼寝一緒にしよう」
立ち上がると俺の腕を取ってのベッドルームへ引っ張られた。そして、そのまま一緒にベッドに潜り込む。
「やっぱり休みの日はゆっくり休まないと」
「うん」
ギュッと俺の手を握って微笑むと、俺は目を閉じた。そして、俺よりも低い体温でも其処に居ると感じさせるの手を握り返した。
「おやすみなさい、シン。いい夢を」
今度は、いい夢を見られそうだ。
UP 03/04/05