次に会うときは





アスランと別行動をする事になって少し街を歩いてみた。

「結構平和なんですね」

幸せそうに笑う親子の姿を何度か見かけた僕は思わず微笑んだ。
出来る事なら、世界中がこんな風に笑顔で幸せそうに笑えたらいいのに。
軍人らしからぬ考えに思わず自分で苦笑してしまった。

「だからイザーク達に笑われるんですよね」

僕の考えは戦争をしている国の軍人としてありえないんだろう。
けれどこんな風に何の差もなく暮らしている人達を見ていると思わず考えてしまう。

コーディネーターもナチュラルも皆一緒に穏やかに暮らせれば。

けど、戦争はそう簡単に終わらなくて。
こんな風にのんびりした中立国の中に他国であるはずの地球軍が匿われている可能性がある。

何を信じていいのかわからない世界。

どうしてこんな風に騙しあったりしなきゃいけないんだろうか、と思ってしまう。

「あ!君!」

呼び止めるような声がして思わず振り返るとミントグリーンの瞳が僕を見ていた。
僕が立ち止まると彼女は小走りで僕に近づいてきて微笑んだ。

「これ、落としましたよ」
「え?」

渡された物は潜入する為の偽造ID。

「あ、す、すいません!」

慌てて受け取ると彼女が一瞬目を細めた。

「貴方・・・・・・」
「え?」
「いえ、ごめんなさい、気のせいだったみたいです」

うわぁ、可愛い・・・
優しく笑んだ彼女に自分の頬が熱く感じた。

「此処に来るのは初めてですか?」
「え、あ、まあ」
「では観光に?」
「まあ、そんな所です・・・」
「そう」

自分の嘘に、少し罪悪感を感じた。

「あっちのメインストリートに行くと、とてもおいしいケーキ屋さんがあるんですよ」
「そうですか」
「ええ。・・・でも、男の子には興味ないかもしれないですね」

誤魔化すように笑った彼女に、そんな事はないです、と言った。

「イザーク達は笑うんですけど、僕は結構甘い物が好きで」
「イザーク?」

お友達?と聞かれて戸惑ったけれど、はい、と頷いた。

「一緒に此処に?」
「はい、今はちょっと一人で」
「そう。なら、甘い物が苦手な方には紅茶や珈琲もあるので是非、と」
「あ、紅茶は結構好きらしいんです」

行きたいな、と呟くように言うと、彼女はクスリと笑った。

「そうですか。でも、いいところでしょう?」

海の方を見ながら彼女は言った。
優しい笑みでも、少し切なそうな眼で微笑んだ。

「とても静かで穏やかな、平和な場所」
「そう、ですね・・・・・・」

『平和』という言葉に胸の奥が痛んだ。
イザークやディアッカはこの場所の事を皮肉った。
その時は心の奥で、確かに、と思ってしまったりもした。
けれど彼女の言葉は何故か切なくて、悲しく感じた。

「ナチュラルもコーディネーターも同じだとは思いませんか?」
「え・・・・・・?」

悲痛そうな眼で僕に問い掛けた彼女に何も言えなかった。
一瞬黙った後、口を開こうとした時。

「おーい、二コルー!」

僕を呼ぶ声がして二人で振り返った先には、ディアッカが手を振っていた。
近づいてきたディアッカに彼女は笑みを見せた。

「こんにちは」

ディアッカを見ると彼女は問うた。

「お友達ですか?」
「えっと、はい」
「どーも」

少し僕に小馬鹿にしたような笑みを見せた後、ディアッカはいつも通り笑った。

「可愛い子と一緒に居んじゃん」
「ディアッカ・・・!」
「あら、有難うございます」

クスッと笑って彼女は軽くディアッカの言葉を流した。
そして、ディアッカが僕を見ると、時間だ、と告げた。

「遅刻になったら怒鳴られるぞ」
「すいません」
「私がひき止めてしまったんです。ごめんなさいね。」

申し訳なさそうに謝った彼女にディアッカは、気にしないでいいって、と笑った。
相変わらず女性には優しい彼に少し驚いた。
そしてその場を離れる事になった。

「何やってんだよ、お前」
「すいません、ディアッカ」
「あれ、オーブの女にしては結構いい感じだったな」

何言ってるんですか、と呆れたように彼を見るとシニカルな笑みを浮かべていた。

「ま、何を隠してるんだか、わかんねーからだろーけど」
「彼女は、違うと思いますけど・・・」

何故と聞かれれば判らなかった。
何となく、としか言えない僕の勘。

その時後ろから彼女の声が僕達を引きとめた。

「今度会う時は―――」

少し悲しそうな笑みで僕達を見ていた。


「お友達も一緒に皆でのんびりとお茶にしましょう」


本当の自己紹介はその時までのお楽しみ。




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