【美しき少女】
結局、キラ・ヤマトと・に脱出の手伝いを頼む事に決定した。
坊主も嬢ちゃんも嫌がると思うんだよなぁ・・・
思わず重たい溜息を吐くと、人の気配を感じて顔を上げた。目に入ったのは、紅碧の髪。
「あ・・・」
驚いたように目を見開いてから、軽く頭を下げた彼女。軍艦の中でよく堂々と歩けるな・・・と正直驚いたが、気にしないフリをして、よ、と笑う。
「どうも・・・」
少し悲しそうな微笑みを浮かべた彼女に、さっきとは全然違う雰囲気のギャップに驚いた。
「こんな所歩くなんて結構勇気あるんだな。嬢ちゃん」
「嬢ちゃんって・・・です」
眉を軽く寄せて言う姿は少し子供っぽく見えたが。彼女は基本的に大人っぽい方だろう。美人の部類に入る。手に持っていたコップを俺に見せるように顔の高さまで持ち上げた。
「お水を頂いたんです。キラが具合が悪そうなんで」
困ったような顔を見せるとさっきのような強い眼が少し責めるように睨む。
「慣れない事が続いて疲れたんでしょう」
ザフトの攻撃は正直俺達でも驚きだったんだ。そんな顔で見られても困る。
「嬢ちゃんだって疲れてるんじゃないか?」
「私はまだコレくらいなら平気です。別に戦闘の真っ只中に行く訳じゃありませんから」
その言葉に俺らしくなく、反応して彼女から眼を逸らした。どうやら目聡い彼女はその事にすぐに気付いたらしい。驚いたように俺を見た。
「どう言う事ですか・・・?」
「いや、それは・・・」
チラッと彼女を見ると困惑した顔で俺の答えを待っていた。
「このまま俺達は此処を脱出する事になった」
「そんな・・・そんな事をしたら―――!」
「戦闘になるだろうな・・・だから、坊主と嬢ちゃんに頼もうと思ってな」
「なっ・・・!」
その言葉に今まで見せなかったくらいに動揺を見せて、大きく目を開いた直後、俺を睨む。
「ふざけないでください!キラも私もヘリオポリスに居たんですよ!?地球軍の軍人でも何でもないんです!」
「気持ちはわかるけどな。そんな事を言ってられる状況に居ない事ぐらいわかるだろ!」
俺が言うと彼女の顔が痛みを堪えるように歪んだ。そして、俺を見るのが耐え切れなくなったのか、彼女は俯いた。
やっぱり、中立国に居た子供には無理か・・・でも、今はそんな事を言っていられない状況だ。
「・・・なら・・・・・・」
沈黙を破るように彼女が呟いた。小さい声が聞き取れなくて聞き返すと、彼女は顔を上げた。
「それなら・・・」
強い瞳が俺を真っ直ぐと見た。
「私が戦います。でも、キラには言わないでください」
どういう意味だ?
彼女の言葉を理解できず怪訝な顔をした。すると感情をなくしたような顔で彼女は告げた。
「殺す覚悟も。殺される覚悟もある」
冷たい声音で告げられた言葉に一瞬背中に冷や汗を感じた。
「じょ、うちゃん・・・」
だから、と続けた彼女はさっきの冷たい雰囲気がなくなって、悲しい微笑みを浮かべた。
「キラを戦いには巻き込まないで下さい」
それでは、と俺が言葉を発する前に彼女は坊主達の居る部屋の方へ歩いていった。一人残された俺は、彼女の願いを叶える訳には行かない事に苛立ち、壁を殴った。
UP 09/16/05