何故、私をそんな眼で見る?

 ―――そんな悲しそうな眼で

お願い、私をそんな眼で見ないで。


 ―――そんな傷ついた眼で。



【忘れられた瞳】



!」

呼び止める声を正直無視したかった。
シンが知った時、きっと彼は怒るから。

けど相手は一国の代表。
失礼な事をするわけには行かず、二度目の呼びかけに振り返ろうとした。
その瞬間、グッと腕を掴まれた。

!」

何故か嬉しそうなカガリ・ユラ・アスハ代表。
その後ろで信じられないという顔をする護衛の『アレックス・ディノ』。
否。さっき艦内の通信を使ったギルによると『アスラン・ザラ』らしいけれど。


「生きていたんだな!!」



ドクンッ



一瞬、体を電気が走ったような不思議な感覚に襲われた。
まるで新型の機体が奪取されるときのように。


「生きてて良かった・・・!」


嬉しそうな声で怒鳴ると彼女は私に抱きついた。


「心配しただろうッ!」


金色に輝く髪は私の眼の端に映ったまま、目の前に唖然とした紺色の髪の男。


ドクンッ


まるでずっと会っていない者を見るような切なそうな深緑の瞳。


「何で連絡しなかったんだよッ・・・!?」


まるで望んでいた事が叶わなかったような痛そうな深緑の瞳。


・・・?」

何も言わない私を疑問に思ったのか、アスハ代表は私を放して首を傾げた。

偶然私と同じ名前の人が私に似ていたのだろうか?

「どうしたんだよ、?」

少し雑な言葉遣いとは違い、心配そうな声音。

?」

どう返答すれば一番いい?

困って、とりあえず曖昧に微笑んだ。

・・・?」

不安そうな表情に変わった彼女を、『アレックス・ディノ』が呼んだ。

「カガリ・・・」
「何だよ、アスラン。お前ももう少し嬉しそうにしろよ!が生きてたんだぞ?」

悲しそうに私を見てから、俯いた彼は首を振った。

「アスハ代表・・・誰かと勘違いをなさっていませんか?」
「はっ・・・?」

できるだけ不自然の無いように笑顔を作って彼女を見る。

「私の名は確かに、ですが・・・私は貴方のような一国の代表と名前で呼ぶ程の親しい関係になれた記憶は無いのですが。」
「何を、言って―――」
「カガリ。」

彼女を止めるように彼が悲しそうな声で呼んだ。

「もう、やめよう・・・」
「何で!?」
「彼女は、俺達を知らない・・・」
「何言ってるんだ、アスラン!」

俯いて私から目を逸らした彼。
アスハ代表は私の肩を掴んで言った。

!ふざけるのもいい加減にしろ!私がわからないのか!?」


「私は・・・・・・貴方を『オーブの若き代表』としか存じません。」


自分が記憶喪失だという事はギルやギルが最初に私に会わせたレイの数名しか知らない。

でも、私が先のヤキン・ドゥーエの大戦があった宇宙で拾われた事実は、レイさえも知らない。


『カガリ・ユラ・アスハ』は、ヤキンで活躍した有名なオーブの代表。

『アスラン・ザラ』は、ヤキンで活躍したザフトの元エースパイロット。

『私』は、ヤキンの大戦が遭った場所で発見された。


その三つの事実が出しそうな答え。

考えたくない答え。



「どうしてッ・・・!?なんで、そんな事を言うんだッ・・・!」


 私は―――


「わたしたちはッ・・・!わたしはッ・・・!」


 こんな風に純粋で、久しぶりの再会を果たしたような眼を―――


「おまえが・・・死んだと、思ってたのにッ・・・・・・!」


 痛みを堪えるように涙が溜まっていく眼を―――


「おまえがッ・・・生きていてくれてた、ことをッ・・・・・・!」


 力なく項垂れ俯いて涙を零す眼を―――


「こんなに・・・!こんなに、嬉しいと思うのにッ・・・・・・!?」



 ―――私は知らない。





UP 06/24/05