【優しい人】
ようやく取れた休憩時間に食堂に入るとそこはとても静かだった。今は一応夜と言うことになっているから当然なのだけど。食堂の隅に静かに座る人を見つけた。その人は、目があうと私に微笑んだ。
「お疲れ様です」
「貴方も、お疲れ様です・・・」
無理矢理私がアークエンジェルへ連れてきてしまったヘリオポリスの民間人の一人のコーディネーターの少女。
食事のトレーを受け取って少し彼女と離れた位置に座る。食堂なのに彼女の前に食事のトレーは無い。最近気付いた事。彼女は一緒にこのアークエンジェルに乗ったキラ君達が居ない時は静かに一人で居る。
「あの、さん」
「はい?」
「そっち、座っても良いかしら?」
彼女の向かいの席を指して言うと、僅かに目を見開いた後、どうぞ、と困ったように微笑んだ。
「どうかしましたか?」
「え・・・?」
突然訊かれた質問に思わず首を傾げてしまった。
「いや、ただ何となく。何かあったのかと思っただけです」
曖昧に微笑むと彼女は視線を私から本へ移した。
彼女は鋭い。色々な人達の感情を理解して考慮する。そして、頭が切れる。戦闘についても、軍関係についても。全てについて。普通の民間人として、不自然なくらいに。
「ねぇ、さん・・・」
呼びかけるとさんは顔を上げて首を少し傾げた。
「今のうちに眠っておいた方がいいんじゃない?」
彼女が眠っている所を見た事がない。もちろん、私だっていつも彼女と居る訳じゃないから判らないけれど。
「大丈夫ですよ。艦長さん。戦闘になっても眠くて死んでしまう事は無いと思いますし」
「そう言うことを言ってるんじゃ―――」
私の目を真っ直ぐと見た彼女が少し自嘲気味な笑みを浮かべた。
「こんな所でよく眠る必要の無い体なんですよ。他の人に体に悪くてもね」
その言葉に私は心が痛んだ。『他の人』と言うのは、ナチュラルという事を示しているんだと思った。
「でも・・・・・・」
「まあ、キラの場合は育ち盛りで眠いんでしょうね」
ふふっと笑って、内緒ですよ、と人差し指を唇に当てた。
「キラ、私に子供扱いされるの嫌いですから」
「・・・そう」
私を気遣っているのがわかった。少しでも、私の罪悪感を無くそうとする彼女の気遣いが。
「あの、さん―――」
「そういえば、艦長さん。一つお礼しなきゃいけないことがあります」
彼女の言葉に思わず首を傾げた。
「軍服を着ないでいいようにしていただいて、有難うございます」
彼女の言葉に目を見開いた。
「さん・・・」
「私の意思を優先させて頂いて」
優しい声に思わず俯いた。
「貴方はとても優しい人ですよ、マリュー・ラミアス艦長」
―――ああ―――
「貴方の優しさに私は嬉しく思ってるんです」
―――貴方はなんて―――
「有難うございます、ラミアスさん」
―――なんて優しい人なんでしょう―――
白 い 軍 服 に 涙 が 零 れ た 。
UP *date unknown*