【すべてを許してくれる人】
「」
眠る相手の名前を呼んでも反応はない。
通常より強い身体のコーディネーターが熱を出すことは珍しい。額に置いたタオルを取って、氷水に浸した。
『昔の知人なの』
そう彼女が言った男は、『敵』だった。
『聞いてるんだろう?零の暗号』
通信機越しに聞こえた言葉。あれは、を指していた。
『どちらかが死ぬまで!戦いは終わらん!』
軽く絞って、再びタオルを額の上に乗せた。熱い頬に触れると、僅かに寄っていた眉間の皺が消えた。
『諦めろ。お前はキラに勝てない』
『あの子に勝てたとしても、私には勝てない』
聞いたことのない軍人のような話し方。
まるで知らない人のような姿。
無事勝ったと喜ぶ人たちが去ってから、機体から降りてきたは無表情で。そんな姿を見たことがなかった僕は声をかけそびれた。
自分の部屋に戻ってから、やっぱりに声をかけようと部屋を訪れた。そこで床に高熱を出して倒れているを見つけた。
ショックから発熱して気を失った身体は、数時間たった今でも、まだに目を覚まさない。
「アイシャ・・・」
寂しげに小さく呼んだ声に胸が痛んだ。
「ごめん、」
きっと親しい人たちだったのだ。僕は、そんな人たちを、奪ってしまった。
「ごめん」
謝ってすむことではないけれど。
それでも、きっと君は、僕を許してくれるのだろう。しょうがないなあ、って笑っていつも許してくれるように。キラのせいじゃないよ、って言って、すべて許してくれるのだろう。
「う、ん・・・」
唸ったを思わず呼んだ。小さく呼んだ時、瞼が震えた。
「キ、ラ?」
僅かにかすれた声で呼ばれた。うっすらと開いた虚ろな目は、僕がいることを理解しているようには見えなかった。
「ごめん」
思わず零れた言葉を、きっと今の彼女は理解できていないだろう。僕を求めるようにゆっくりと動いた手を握った。
「キラ」
「ここにいるよ」
苦しそうに息をする姿から、熱は下がっていないことが分かる。きっと思考もぼんやりとしているのだろう。
「なにか、欲しいものある?」
一応聞いてみた。ずっと食事もしていない。
「水もあるよ」
答えはなかった。かわりに、握っていない方の手が、僕の頬に触れた。
「?」
小さい声で呟かれた言葉に、息をのんだ。
「キラのせいじゃないよ」
ああ、やっぱり、君は――
UP 06/01/14