「ばかな」
思わずは立ちあがって呟いた。そして、本部席の方へ視線を向けた。カウントが遅れたために幽助が陣と引き分けだと言うのは、どう考えてもおかしい。
リングの上に立つ吏将は、自慢気に小兎に勝ちを宣言するように言った。しかし、立ちあがった桑原が自分が出ると宣言した。
「・・・戸愚呂」
ハッとは横を見ると、戸愚呂が立っていた。すると、左京が立ちあがった。
「ちょっと用事ができたんでね」
どこか怒っているような様子の左京にはハッと息をのんだ。戸愚呂の前を歩き出した左京から目をそらすようにリングへ目を向けた。桑原は吏将に殴られてフラフラとした足取りだ。
始まった戦いを止めるはずがない。飛影と覆面を解放するように言うのだろうか。
は瑠架の結界を見た。結界の中では、飛影が殺気だっている。
飛影と覆面を戦わせないための策略でさえ、は卑怯で嫌気がさした。さらに、あからさまな今回のことは左京とて嫌悪を示していた。
「まさか」
バッと立ちあがり、駆け出した。
VIP席の方へ走ると、警備員から逃げている少女たちを見つけ、足を止めた。
「あ」
警備員二人に腕を掴まれた静琉を見て、首を傾げた。確か浦飯チームの応援に来ている一人だ。
「どうしたんです?」
「あ、さま」
「私のお友達が何か?」
が問うと、慌てた様子で警備員が静琉の腕を離した。
「試合、桑原君出てますよ」
「あ」
の言葉に、ありがとう、と言うと駆け出した。
「どうかしたのか?」
「あ」
ちょうどVIP席から降りてきた戸愚呂と左京を見ると、なんでもない、と返した。わずかに漂う血の匂いに、は何があったのか一瞬で悟った。
「試合の続きを見に行こうか」
左京が言うと、は素直に頷いた。特別変更はない様子に少し肩を落とした。しかし、歩き出した左京の後ろを戸愚呂と並んで歩くと、戸愚呂は小さく呟いた。
「これくらいで負けてもらっちゃ困る」
ハッとは戸愚呂を見た。どこかで期待しているのだ、彼等が強いことを。強い彼等と闘うことを。
「そうだね」
小さく返したに、戸愚呂は小さく笑んだ。
強 者 を 求 め 続 け る 人
UP 09/24/2013