−SCENE 01−
−プロローグ−
「ただいまー」
「おかえりなさい、奏一」
久しぶりに帰ってきた従兄を迎えに玄関までパタパタとスリッパを鳴らして出迎えた。
「いい匂いがするな」
「スープ、作ってる」
のあまり見せない笑顔に奏一はホッとして、靴を脱ぐとに覆い被さるように抱きついた。
「ちょっ・・・!」
「、疲れたー」
体重をほとんど自分よりも小さな従妹に預けようとすると、おもいです、と呟いた。
それでもあまり抵抗しようとしないに奏一は小さく笑った。
「体が痛いな」
「早くシャワー浴びたらどうですか?楽になるでしょう?」
抱きついた腕を開放すると、は苦笑しながらスーツケースを部屋へ運びはじめた。
そうする、と頷いた奏一はそのままスーツケースを自分で部屋に運んで、シャワーを浴びる事にした。
疲れたー、と嘆きながら風呂場に向かった従兄の背中を見ながらキッチンへ戻ったは、再び笑った。
「あ〜、いい匂いだな〜」
突然キッチンに入ってきた従兄には驚いたように振り返った。
「もう出たんですか?」
「もちろん。で、スープは?できた?」
鴉の行水、とが小さく呟くと、奏一は、何か言った?と訊いた。
「いいえ、何も。できてるよ、スープもご飯も」
「じゃあ、晩飯にしよう」
奏一がそう言うと、は頷いてスープを紫色の器によそった。
テーブルに料理が並ぶと二人は向かい合って座り、食事を始めた。
「うん、美味い」
「よかった」
「うん」
嬉しそうに笑ったに奏一は、で、と話を始めた。
「はい?」
「最近どうしてた?」
「どうしてたって、普通に学校に行ってたわ」
「普通にって?」
色々話を聞きたがる母親みたいだな、と奏一は心の中で自身の行動に苦笑したが、続けた。
「テニス部、強くなってきたか?」
「さあ。ある程度は」
「へえ、すごいな」
奏一は、そういえば、と思い出したように言った。
「手塚君、ドイツに行ったって?」
「ええ」
「とうとういったか」
「景吾さんが相手でしたから」
の言葉に奏一は驚いたように目を丸くした。
「け、景吾さんって・・・あの、跡部のガキか!?」
「跡部のガキって・・・」
は呆れたように奏一を見るとまた一口スープを口にいれた。
「あいつ、テニスまだやってたのか・・・」
「部長をやってるんですよ。あ。あと生徒会長もって言ってました」
ふーん、と呟くと奏一はガーリックブレッドにかぶりついた。
「あ、これ美味いな」
「今日焼いてみたの。にんにく潰して、パンも生地から」
「今度また作れよ」
「はい」
二人同時にサクッと音を立てて再びガーリックブレッドを食べた。
「今度相手してやるかな」
「偉そう」
「あんなのに比べたらな」
相変わらず子供っぽいな、と従兄を見て思うとは苦笑した。
「今度伝えておくわ」
「おう。クソガキ、今度プロの奏一様が相手してやりますよ、って伝えておけ」
「景吾君、今度一緒にテニスを楽しくやりましょう、って伝えておきます」
言葉を入れ替えて答えたに奏一は笑った。
そして、食事の間、奏一は仕事での話をした。
「そうだ。」
「はい?」
食事も終わり、後片付けを終えたを奏一が見た。
「惺のバンド、人気なんだって?」
「ああ。そうみたいね」
「お前が作詞やってるって聞いてたけど」
他人事のように頷いたを呆れたように見て、CD持ってるか?と問うた。
もちろん、と頷いたは奏一にそのCDを棚から取り出し、渡した。
「へえ。静琉が撮った写真じゃん」
「そうよ。最近写真集だそうとか考えてるらしいの」
「ふーん。お前がモデルで?」
奏一の問いには目を見開いた。
「・・・わかったんだ」
「そりゃあ、お前、自分の従妹がCDのジャケットに撮られてりゃあな」
ポンポン、とCDを叩いた。
「・・・皆は気付かないわ」
「そんな奴等と一緒にすんなよ」
の驚きに奏一は苦笑いを浮かべた。
「いくらメイクしてて天使や悪魔の格好してても、可愛い従妹ぐらいはわかる。」
そう、と呟いた従妹に、それに、と奏一は続けた。
「この作詞も作曲も、お前だろ?」
は、どうして、と問うた。
「作詞作曲、Blue Genius、って書いてあるからな」
CDケースの裏を指差して答えられた言葉には少し目を伏せた。
「作詞は私でも、作曲は違うわ。」
切なさを含んだ微笑みに奏一は一瞬黙った後、そうか、と頷いた。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
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fix 02/18/14