−SCENE 02−
−ミーティングの後に−
「おはよう、さん」
「・・・おはようございます」
はニコニコと笑顔を浮かべた不二に小さく頭を下げた。
「相変わらず来る時は早いみたいだね」
大石より早いんだってね、と話し掛ける不二には何も答えなかった。
色々話し掛ける不二をどうすれば止められるだろうか、と考えたは小さく息を吐いてから問うた。
「練習メニュー終わったんですか?」
さすがにまだ終わっていないだろう、と思っていたはこの質問で不二が傍から離れるだろうと思っていた。
しかし、その考えは外れた。
「終わったよ」
「・・・全部ですか?」
怪訝な顔で訊くに苦笑いを浮かべながら不二は、うん、と頷いた。
「・・・全部、ですか?」
「うん。全部だね」
少し考えた素振りを見せると不二を見た。
「・・・足りないなら増やしましょうか?」
「それはさすがにキツイなぁ」
爽やかな笑顔で全く疲れを表に出さない為、不二の言葉は全く信じがたいものに聞こえた。
はあ、と溜息を吐くとは、それなら、と不二の後ろに目を向けた。
「あちらで苦戦している方の手伝いでもしてください」
不二が後ろを向くと、コートの中でダブルスの練習をする桃城達が紐に絡まっているのが見えた。
「ああ」
あまりにも間抜けな姿に苦笑した不二がを見るとはその場を離れ別の仕事を始めた。
「相変わらずっすね」
「そうだね」
「不二先輩も懲りないんすね」
ラケットを肩にかけてファンタを一口飲んだリョーマは呆れたように言った。
「そうだね」
「嫌がってんのに構う人も中々いないっすよね」
また一口ファンタを飲むとリョーマは傍の木陰に座った。
「そんなに嫌がってるかな?」
「嫌がってるから避けるんでしょう」
なるほど、ととぼけたように不二が笑うとリョーマは眉間に皺を寄せた。
「君みたいに隠れて観察するのもどうかと思うけどね」
「・・・何のことだか」
顔を逸らしてとぼけるリョーマに不二は笑みを深めた。
「ま、不二先輩とは別の意味で学習能力のない人も居るみたいっすけどね」
リョーマの視線を辿ると、が菊丸に八つ当たりされているのが見えた。
そうだね、と不二はあきれたような顔で笑った。
「でも、まあ。今日は、少し機嫌がいいみたいだし」
「へえ、わかるんすか?」
「君もわかってるでしょ?」
「まあ、いつもよりは雰囲気が明るいっすから」
何かいいことあったのかな、と不二が言うとリョーマは、さあ、と肩を竦めた。
そして、朝練の時間が終わり、それぞれが教室へ向かっていった。
★☆★ ☆★☆ ★☆★
放課後の時間になると、とスミレはミーティングのためにある教室に居た。
「そうか。奏一が帰ってきたのかい」
「はい。たまに出かける事は会っても、しばらくは長期で居ない事はないらしいです」
「そうかい」
良かったね、と笑ったスミレには頷いた。
その時、教室の中に大石が入ってきた事に二人は気付いていなかった。
「それなら好きなだけ甘えられるねぇ」
「甘えるって・・・」
「むしろ、あいつの方が子供みたいに甘えそうだねぇ」
「まぁ・・・あれ作れ、これ作れ、言いますけどね」
困ったように言ったにスミレは、だろうね、と笑った。
そこで一体何の話をしているのかわからないままの大石が困ったように声を掛けた。
「あ、あのー」
「・・・大石さん」
「おお。大石。珍しく遅かったねぇ」
「委員会でちょっと」
一体誰の話だったんだろう、と思いつつも大石はスミレが始めたテニス部の話に頭を切り替えた。
「まあ、とりあえず今日はここまででいいじゃろ」
「そうですね」
「それでは、失礼します」
「それじゃあ、竜崎先生。また明日」
が頭を下げるとスミレは、気をつけて帰るんだよ、と言った。
そして、大石とはもう生徒の居なくなってしまった廊下に出た。大石はチラッと隣を歩くに目を向けた。
さっきの話、誰だったんだろう・・・?
気になるけど、聞けない。そんな思いで大石は頭の中で悩んでいた。
「何か?」
「えっ!」
「さっきから視線を感じますが」
大石はばれていたのか、と頭を掻いた。
「と、特に用は・・・」
「そうですか」
もう少し粘ってもらえれば訊き出せたかもしれない、と少し後悔した。
校門のところにつくとは、それじゃあ、といった。
「失礼します」
「あっ・・・!」
「・・・?」
突然声を上げた大石を不思議に思ったは首を傾げた。
大石は、いや、その、とどもった。
引き止めてどうするよ、俺・・・!
無意識に呼び止めてしまった自分に頭を抱えつつ、ようやく大石は言った。
「えーっと。その、そ、そろそろ、暗くなる頃だし、送ってくよ・・・」
「え?」
いきなりの事には目を見開いた。
普段、ミーティングがあっても、このくらいの時間ならば別々に帰るのだ。
「別に大丈夫だと思いますけど」
「う、ま、まあ、いいじゃないか」
少し赤くなった大石を見て、は不思議そうに、はあ、とまた首をかしげて頷いた。そして歩きだした大石に倣って歩き出した。
変な感じ、とは心の中で呟いた。
まさか自分が学校に通って、同年代の子供と一緒に下校する事になるとは、思いもしなかったな。
真っ直ぐ前を見ていながら考えると違い、大石は横目でをちらりと見た。
綺麗だよなぁ、さん。大人っぽいし。
クラスの女子達とはなんか違うっていうか・・・
これで俺よりも一つ年下なんだよなぁ・・・
二人がバスに乗り込むと他校の生徒の視線がに向いたのを大石は気づいた。
もちろん、本人は気付いていなく、座りますか?と訊いた。
「いや、さんが座ればいいよ」
「二つ席、開いてますけど」
ああ、と大石は照れたように、気付かなかったよ、と言って、と並んだ席に座った。
「そ、そういえば英二が、お姉さんに歯磨き粉を使われたって不機嫌だったの、知ってた?」
「歯磨き粉・・・」
「そうなんだよ。あいつ、実は歯磨き粉にこってて」
沈黙が耐え切れなくなった大石は色々な話を始めた。とはいえ、唯一大石がについて知っている事は自分も居るテニス部の人間のこと。それでも自分が知っている事を色々話し始めた。
一方は、そんな大石の話に耳を傾けてはいるものの、そうですか、など相槌しか打っていなかった。
その時、バスが停まると、歳を取った老女が乗ってきた。バスの中に席は空いていなく、大石が立ち上がろうとする前には立ち上がった。
「どうぞ」
「いいのかい?ありがとう」
ニコリと優しそうな笑みを浮かべて老女はが座って居た席に座った。
大石は、本当に優しいんだよなぁ、と思いつつに向かって言った。
「あ、さん、座って」
「いえ、私は平気です」
「いいから」
大石は立ち上がると、ほら、とを座るように促した。
困ったように眉を寄せた後に、有難うございます、と礼を言って座った。
そして、の隣に座る事になった老女は笑った。
「優しい彼氏だねえ」
「えっ!」
老女の言葉に大石は顔を赤くした。
しかし、は困ったように、そんな関係じゃないんですよ、と答えた。
「そうなのかい?」
「そ、そうですよ。僕達は、部活が一緒なだけなんです」
慌てて大石が言うと老女は笑みを浮かべたまま、恥ずかしがりやなんだねえ、言った。は隣で困ったように眉を下げて大石を見上げた。
そしてしばらくすると、降りるバス停につき、が立ち上がって、それじゃあ、と歩き出した。大石が後を追おうとすると、老女は手招きして、大石は屈んだ。
「綺麗な彼女を大事にね」
「は、はあ・・・」
「告白は雰囲気を大事に、がんばりなさいね」
「ええっ!」
違います、と否定した後、顔を赤くしたまま大石はバスを降りた。
「何か言われたんですか?」
「えっ・・・!」
「降りてくるのが遅かったので」
「いや、別に・・・」
いえるわけが無い、と思いながら大石は、なんでもないんだ、と答えた。
そして、歩き出した時に大石はあることに気付いた。
俺、さんの家の場所知らない・・・
っていうか、この景色、物凄く見覚えがあるぞ・・・
「あの、さん」
「ここで結構ですよ」
立ち止まった所は、俺の家からすぐ近くの角だった。
「えっ」
「ここのあたりじゃないんですか?」
どう考えても大石の家の話をするに、大石は困ったように、そうだけど、と小さな声で呟いた。
「俺、送ってくよ、さん。もう暗くなったし・・・」
「大丈夫ですよ。家がすぐ傍なのに、わざわざ遠くまで行く必要ないでしょう?」
「だけど・・・」
大石は、はめられたような気分になった。
大石がの家を知らないとわかっていての行動だったのだろう、と今更気付いたことに大石は情けなく感じた。
「それじゃあ、失礼します」
また明日、とは言うとそのまま来た道を引き返していった。
そのことに大石は、わざわざ自分の家の近くまで来たのか、と気付いた。
自分の家を知って欲しくないのか・・・?
大石は、誰か彼女の家を知っている人間が居るのだろうか、とふと疑問に思いつつも、角を曲がってすぐの自宅へ歩き出した。
UP *date unknown*
fix 02/18/14