−SPECIAL SCENE−

−MS. SANTA−

−後編−




「あ、先生。こんにちは」
「こんにちは」

軽く頭を下げて帰る仕度をする看護婦に告げた。イヴに彼とデートするんです、と先日嬉しそうに彼女が他の看護婦達に笑っていたのを思い出した。表情を変える事無く、その場を過ぎようとすると彼女は不思議そうに言った。

先生、今日も病院に?」

私よりも年上でも、所詮新人。彼女は私をよく知らず、話し掛けようとする人で何度か先輩達に注意されているのを見かけた。

「ええ。それが何か?」
先生くらい綺麗だったら一緒にクリスマスを過ごす人が居そうなのになぁって・・・」

彼氏なんか居ませんよ、と先日言ったら本気で驚かれたらしく大声で叫ばれた。またか、と溜息を吐きそうになりつつ、それを抑えた。この間は幸村さんの病室の傍だったから、先生って彼氏居ないんだ、と後で言われた。話題を逸らす為、時間平気ですか、と問うと、彼女は時計を見て慌てて仕度を再開した。
そして、私はその場を離れる為に足を進めた。


★☆★ ☆★☆ ★☆★


先生!」

嬉しそうに笑う子供達は、私を見た瞬間やっていた事をやめて駆け寄ってきた。
一人の男の子が私の腰に抱きついて見上げてきた。

「今日ね、お父さんが遊びに来てくれたんだ!」
「そう、よかったね」

本当に幸せそうな笑顔に思わず私も笑みを零した。その後、他の5人の子供達が私の周りを囲んだ。
サンタさんに何々を頼んだ、とかママが明日何をくれるかな、とか話題はクリスマスの話。私は経験した事が無い普通の家庭のクリスマスの話を聞きながら相槌を打った。幸い、私が診る必要のある患者は小児科に来る前に診てあった。その為、時間を気にする必要が無く、子供達の話を聞くことが出来た。

せんせい。サンタさんって、病院でもわかるのかな?」
「ん?」
「病院に居てもサンタさんはみっちゃんのこと見つけられる?」

今年入院したばかりの女の子が私を見上げた。

「もちろん。サンタさんがわからなかったら先生が教えておいてあげるわ」
「ホント?」
「本当」

安心させるように頭を撫でると照れたように、えへへ、と笑った。すると先程抱きついた男の子が、あ、と声をあげた。

「ねぇ、先生。精一兄ちゃんもサンタさんからプレゼントもらえるかな?」

思わず、え、と目を丸くした。
子供達が幸村さんに懐いている事は周知の事実。しかし中学生の彼が『サンタさん』と言うものを信じてるとは思い難い。でも子供達は、精一兄ちゃんが欲しいって言ってた、と口をそろえた。少し困りながらも、いい子だったらもらえるんですよ、と告げた。そして話題が変わり、時間は過ぎていった。


★☆★ ☆★☆ ★☆★


はあ、と息を吐いて青く染められた髪を留めていたクリップを外した。少し癖がついてしまった髪は少しウェーブをかけたように見える。クリップを白衣につけて、ある部屋に入った。
外はもう暗くなっていてカーテンの間から光がいくつも見えた。

「こんばんは」
、ちゃん・・・?」

驚いた様に私を見る幸村さんに、何ですか、と問うた。
本当に驚いてるらしく、幸村さんははっきりとしない声で呟いた。

「昼間に、診察に来てたし・・・」

たしかに私は昼間に診察を終えていたから幸村さんの病室に来る必要は無かった。

「来い、と言ったのは、幸村さんでしょう」
「うん、まあ、そうなんだけどね」

やっと立ち直ったのか、本当に来ると思わなかった、といつもの穏やかな笑顔で言った。そして、座ったら、とベッドの傍の椅子を指した。私は白衣を脱いで椅子の背もたれにかけて座った。

ちゃん、今まで仕事だったの?」
「ええ。この後もですけど」

大変だね、と言う彼の調子は最近安定しているようで、安心した。すると幸村さんは、今日訪れた幸村さんの家族の話を始めた。珍しく子供のような幸村さんの話に先程の子供達の会話を思い出した。
幸村さんも、昔は信じていたのかな?今は、信じてるとは思わないけど。

「そういえば、今日母さん達が居る時間がいつもより長かったなぁ」
「クリスマス・イヴですしね」
「やっぱりそう思う?妹もいつもよりはしゃいでたし」

嬉しそうに話す幸村さんが、ほら、と指差す先を見るといくつかプレゼントの箱があった。

「自分のお小遣いで買ったんだよ、だって」
「・・・えらいんですね」

しっかりしてる妹なんだろう、と思うと母にその場で渡されたお金を自分でレジに出しただけだと笑った。口には出さなかったけれど、それはそれで子供らしくて私は可愛いと思った。それが普通の子供なんだろう。

「それでね」
「・・・・・・?」
「母さんにちょっと頼んだ物があったんだ」

意味がわからず首を傾げた。
すると雪の模様が描いてある青いラッピングの箱を持ってくるように頼まれた。

「コレですか?」
「そう」

渡すと、ありがとう、と言われて差し出された。
渡したばかりの物を差し出されて私は困った様に眉を寄せた。

「メリークリスマス」
「え・・・?」

手を引かれて、箱を上に乗せられた。

「私に、ですか?」
「もちろん。って言っても大した物じゃないんだけどね」

開けて、と言われて従うと中から綺麗な携帯ストラップが出てきた。
革っぽいストラップは青く染められていて、青いクリスタルがハート型に整えられていた。

「綺麗・・・」

思わず呟くとクスッと笑い声が聞こえて、よかった、と呟かれた。
顔を上げると、女の子のプレゼントってあんまりわかんなかったんだけど、と告げられた。

「・・・貰っても、いいんですか?」

再び問うと、貰ってくれないと困るんだよな、と苦笑された。

「女の子にプレゼントするのなんて、初めてだからね。かなり困ったんだけど」

特に病院の中に居るからね、と付け足す幸村さんを見て私は少し恥ずかしくなった。『女』と言われる事はあっても、『女の子』と言われるのなんて滅多に無い。奏一や徹だって私を『女の子』とは言わない。慣れない事を言われるのは、やっぱり幸村さんを苦手だと感じる瞬間だ。どう対応していいかわからない。

「え、と・・・有難うございます・・・」
「どういたしまして。」

すると白衣のポケットから電話が振動でガタガタと音を立てた。病院内でしか使われない電話は何かあった時使われる物。

すいません、とそれを出すと、ナースセンターからの知らせ。緊急の用事ではないようで行く必要は無いけど、『お願いですから来て下さい』と書いてある。いつもなら私用で使うな、と言っているのだけど肝心の理由が書いてないから仕方なく行く。

「急患?」
「さあ?よくわかりません」

立ち上がって、すいません、と謝ると、気にしないで、と返された。

「えっと・・・」
「ん?」

少し動揺する自分が珍しく、恥ずかしく感じて私は部屋のドアで振り返っていった。

「サンタさんから、プレゼント来るといいですね」
「へ?」

何を恥ずかしい台詞を吐いてるんだ、と思いつつもその部屋を急いで出た。そして、何年か前から特別院長が置いた『先生専用』の部屋のデスクにある箱を思い浮かべた。


「サンタさんなんて、私らしくないな・・・」


ナースセンターに向かう途中静かな廊下でポツリと呟いた。


★☆★ ☆★☆ ★☆★


次の朝、が担当していた子供達の枕もとには、それぞれプレゼントが置いてあった。そのプレゼントは全てが以前から子供達の両親から受け取ってあった物だった。嬉しそうな騒ぎ声が聞こえ出すと、せんせー、とを呼んだ。は、よかったね、と子供達に返し、自分からのプレゼント、と言ってクッキーの入った袋を渡した。

そして別室では、『From Santa』という綺麗な文字付きのカードとラッピングされた箱を見つけた少年。もちろん、中学生になった今ではサンタからのプレゼントではない事はわかっていた。ふ、と笑みを浮かべると少し嬉しそうにラッピングを外した。そして昼になって見舞いに来た同級生に、何?その箱、と問われると笑顔で答えた。

「綺麗で若い『サンタさん』からのプレゼント」

何だそれ、とガムを膨らませて不思議そうな少年は結局彼の言葉の意味がわからなかった。





◆FIN◆

BG本編の前の年のクリスマス。

クリスマスの時にフリー配布していた物。
今はフリーではありません。

再UP 02/11/05



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