スレチガイ アンノウン

08. 少年の想い



走り出して校門を出て右に曲がった。
けど、の姿はなくて。
初めてアイツの足の速さに気付いた。

『そういえば、宍戸。』
『んだよ?』
『君の彼女リレーの選手だって?』
『ああ・・・』
『足が速いって評判らしいよ。』
『そうかよ。』

体育祭の前に滝に言われた言葉。

『なあ、宍戸。』
『あ?んだよ?』
『お前、ホンマ気をつけたほうがええで。』
『はあ?』
『お前、実は気付いとらんと思うけど。ちゃん結構人気あんねん。』

数日前に忍足に言われた言葉。

俺は何一つ、アイツ等の言っていた言葉を理解していなかった。

勘で左に角を曲がる。
すると氷帝の制服を着た女。

!」

呼び止めるために叫ぶ。

止まってくれ、頼むから。

ッ!」

もう一度叫んで走るスピードを上げる。
いくら早いと言ってもテニス部元レギュラーの俺はよりは早い。

ッ!!」
「ッ・・・・・・!」

追いついてグッとの腕を掴んで振向かせた。
思わず目を見開いた。

の頬を濡らす涙。

・・・」
「りょ、くん・・・」

初めて見た、の涙。

・・・・・・」
「ご、ごめ・・・」

涙が止まらないらしく謝る姿に心が痛んだ。

何で、俺は気付けなかったんだ?
こんな風にが我慢していたのを。

スッと掴んだ腕を放すとは涙を隠すように目を拭いた。

。」
「あ、あの・・・ごめんね。ほんとに、亮君困らせるつもり、なかったのに、なんか。本当にごめんね。」

震える声で無理矢理笑顔になろうとする
俺のために今までコイツは何度こうやって無理矢理笑顔を作ってきたんだろう?
きっと数え切れないくらいだ。

にどれだけ寂しい不安な思いをさせれば気が済むんだよ・・・』

きっと月空は俺よりもを知っていた。
だから、俺は嫉妬したんだ。

。」
「ほんと、に。ごめんなさい・・・・・・」

どんどん小さくなる声が俺に罪悪感を感じさせた。

『放課後だって遅くても言いから待ちたいのに、待てなくて!好きだって言葉も貰えなくて、不安で!』

、俺・・・」
「・・・ねが・・・ら・・・で・・・・・・」
「ッ・・・・・・!」

俯いたが本当に小さな声で呟いた言葉。

『お願いだから、嫌わないで・・・・・・』

本当に小さな願いに罪悪感の波が押し寄せる。

はな、お前が好きなんだよ!嫌われたくなくて、ワガママが言えなくて!』

嫌いになるわけ、ないのに。

。俺は、お前が・・・こんなに我慢してる事に気付かなかった。悪かった。」
「・・・・・・」

首を横にふるの肩に手を置いて目を合わせる。
潤んだ目が俺を見た。

「さっきのは、本当に悪かった。俺がどうかしてた。」
「紅夕は、幼馴染、なの・・・ほんとに、それだけ・・・」
「ああ。」

でも俺はアイツを見た瞬間頭に血が上るような気がした。

「さっき、アイツを見たとき。凄く腹が立った。」

アイツへの怒りでもへの怒りでもなく。
自分の馬鹿さ加減に。

「俺は待つなって言ったくせに、お前が他の奴を待ってたことに嫉妬した。」

激ダサだよな。

「でも同時にすっげー不安になった。」
「りょう、くん?」

少し弱気になった声音に気付いたが俺を呼んだ。

「俺は、が好きだ。」

俺の言葉に驚いたらしくの目が丸く大きく見開かれた。

「本当は待って貰おうと思ったこともあった。けど、レギュラー落ちしたりして、ダサい所とか見られたくなくて。俺はずっとお前に待たなくていいって言った。」

本当は俺は怖かったんだ。

「お前をわざわざ待たせるのは悪いと思ったし、その・・・男が、待っててくれ、なんてダサい事言いたくなかった。」
「そんな事・・・」

お前を束縛しすぎて、嫌われるのがこわかった。

「って、こんな事言ってる時点で、激ダサ、だよな・・・」

不器用な俺は、正直な言葉がいえなかった。
の肩を掴んでいた手を外して、悪かった、ともう一度謝った。
再び俯いたに俺は不安になる。
別れると、言われるかもしれない。

「亮君・・・ごめんね・・・」

呟かれた言葉に崖から突き落とされた気分を感じた。


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