スレチガイ アンノウン
09. 少女の想い
名前を呼ばれても涙を見られないように振り返らずに走った。
でもやっぱりテニス部の亮君の方が早くて。
掴まれた腕が熱かった。
「ッ!!」
「ッ・・・・・・!」
振向いた瞬間、亮君の目が大きくなった。
「・・・」
「りょ、くん・・・」
冷たい涙が頬を伝った。
「・・・・・・」
「ご、ごめ・・・」
泣きたい訳じゃないの。
困らせたいわけじゃない。困らせたくないの。
亮君に嫌われたくないの。
止めようとしても涙は止まってくれなくい。
「。」
「あ、あの・・・ごめんね。ほんとに、亮君困らせるつもり、なかったのに、なんか。本当にごめんね。」
掴まれた腕を放されて涙を拭いながら言う。
笑わないと。
笑わなきゃ、嫌われちゃう。
ギュッと眉間に皺が寄っている亮君を見れば、不機嫌なのは一目瞭然。
面倒な奴だと思われるのが怖い。
亮君に嫌われるのが、怖い。
ごめんなさい、と震えた声で何度も呟く。
「ほんと、に。ごめんなさい・・・・・・」
亮君は何も言わないで、ただ私を見ていた。
不機嫌そうに、何か考えるように眉間に皺を寄せて。
「お願いだから、嫌わないで・・・・・・」
とってもとっても小さな声で、抑えきれなかった思いを俯いて言うと、頭の上の方でヒュッと亮君が息を呑んだのがわかった。
『さ、もう少しワガママになってもいいと思うよ?』
『・・・』
『大体アンタは我慢しすぎなのよ!』
『そんな事・・・』
『ある!』
『・・・でも、言えないよ。』
『何で?』
『嫌われるのが怖いの。』
を嫌いになる奴なんか居ないよ、と言ってくれたの言葉が嬉しかった。
『何で言わないんだよ?』
『・・・恐いんだよ。』
『・・・・・・』
『私ばっかり好きになってくみたいで、恐いの。』
『・・・・・・』
『ワガママ言って、嫌われたくないの・・・それでも、時々会えるから、話せるから。このままでいいの・・・』
『・・・』
『嫌われるより、よっぽど・・・』
『お前を嫌う奴なんか居ねぇよ。』
そう言ってくれた紅夕の言葉が本当だと思いたかった。
突然肩に手を置かれて顔を見上げた。
「。俺は、お前が・・・こんなに我慢してる事に気付かなかった。悪かった。」
違うの、謝って欲しいんじゃないの。
「さっきのは、本当に悪かった。俺がどうかしてた。」
「紅夕は、幼馴染、なの・・・ほんとに、それだけ・・・」
ああ、と頷いた亮君は少し辛そうな眼をしていた。
「さっき、アイツを見たとき。凄く腹が立った。」
どうして、という問いは口に出来なかった。
「俺は待つなって言ったくせに、お前が他の奴を待ってたことに嫉妬した。」
突然声音が変わった。
「でも同時にすっげー不安になった。」
「りょう、くん?」
とても悲しそうな声に驚いてしまう。
どうして?
亮君の態度に私は余計に不安になる。
何をこの先言われるのか。何をこの先告げられるのか。
でも次の瞬間私は予想外の言葉を貰う。
「俺は、が好きだ。」
今までずっと言ってもらえなかった言葉。
「本当は待って貰おうと思ったこともあった。けど、レギュラー落ちしたりして、ダサい所とか見られたくなくて。俺はずっとお前に待たなくていいって言った。」
今までずっと言って欲しかった言葉。
好きだったのは、私だけじゃない?
本当に?
「お前をわざわざ待たせるのは悪いと思ったし、その・・・男が、待っててくれ、なんてダサい事言いたくなかった。」
「そんな事・・・」
ないのに。
ずっと言って欲しかったのに。
「って、こんな事言ってる時点で、激ダサ、だよな・・・」
目が熱くて俯いて頭を横に振る。
「亮君・・・ごめんね・・・」
貴方の不器用さを知っていたはずなのに。
「私、亮君にわがまま言うのがこわかったの。嫌われるのがこわくて、いっつも言う事聞いてた。」
「・・・」
亮君の不器用な態度を一番わかってあげるべきだったのに。
「でも何処か頭の隅でね、悲劇のヒロインっぽい感じに自分で思った事もあるの。」
なんて、馬鹿なんだろう。
なんて、嫌な女なんだろう。
「ごめんね。亮君が、恥ずかしがりやなのはわかってたはずなのに。私、気付けなくて。」
私達はいつの間に、こんな風にすれ違っていたんだろうか。
「でも、私の気持ちはずっと変わってないの。」
違うよ。前とは違う。
「ううん。変わったかもしれない。」
私は、亮君が不器用で優しい事を知ってるの。
「私、亮君のことが、前よりもずっとずっと―――」
だから今、凄く恥ずかしくても、好きって言ってくれたのもわかってる。
「大好きだよ。」
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